立教大学 ESD研究センター
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イベントレポート

【2009/10/03(土)公開講演会:ドイツ・スウェーデンにおける「ESDの10年」の成果と課題】

  P.C. 櫃本真美代(ESDRC)
日時: 2009年10月3日(土)13:00~15:00
場所: 立教大学5号館 5302教室
題目:

「ドイツ・スウェーデンにおける『ESDの10年』の成果と課題」

講師:

カール・リンドバーグ(「ESD の10 年」ユネスコ・ハイレベルパネル委員)

司会:

阿部治(ESDRC)

主催:

立教大学ESD研究センター

    

 カール・リンドバーグ氏(「ESDの10年」ユネスコ・ハイレベルパネル委員)をお招きして、スウェーデンを主とした欧州のESDの現状と、参加者からの質疑応答を行った。
 当初、ゲルハルト・デ・ハーン氏(ドイツESD円卓会議議長、ドイツ・ユネスコ委員会科学専門部会委員)も講演予定であったが、急遽、本人の都合により来日がキャンセルとなった。

カール・リンドバーグ氏略歴
 2004年7月よりESDユネスコ・ハイレベルパネルのメンバー。2005年11月からスウェーデン・ユネスコ国内委員会のESD特別顧問。1994年から2004年まで、スウェーデン文部科学省次官を務める。2000 年4月ダカールEFA会議へのスウェーデン政府代表団の団長。2007 年よりウプサラ大学持続可能な開発センター及びスウェーデン農業科学大学で理事。2003年6月スウェーデンで行われたESD会議の最高責任者を務める。

司会:阿部治(ESD研究センターセンター長)

講演内容
阿部:ユネスコ・ハイレベルパネルの5人のうちの一人で、ユネスコ国内委員会のESDの特別顧問でもある。また、スウェーデンの文部省の次官もしていた。スウェーデンは、世界で始めて環境の国際会議(ストックホルム会議)を行った場所でもある。カール氏が全て主張してきたし、ESDのことはなんでも知っている。スウェーデンだけでなく、世界の指導者としてすばらしい方である。
カール:今回、このような機会を与えてくれてとても感謝している。ESDについて立教で話すことが出来てとてもうれしい。「立教」の名前は何度も聞いたことがある。また、総長の大橋英五氏の真なる教育とは何か、として個人や社会が非常に深い洞察と理解が必要とされていることにも同意するものである。
 阿部先生とは何年もの知り合いである。私が薦めたいアイデア、あるいは世界で薦めたいアイデアを、日本(阿部先生)も行っていることはうれしい。日本の政府がヨハネスブルクでDESDのイニシアティブをしたことなど。また、現在の鳩山首相がCO2を減少することを提起したことに対して、スウェーデンの首相は金メダルをあげたいといっていた。
 私たちの共通の将来は、国家に対して、世界に対しての必要性である。昔は、このような話は驚かれたが今はどうか?国連で何を話してきたかを少し話す。
 人間が直面している問題には、温暖化、貧困、健康、生物多様性などがある。地球憲章の序文には『地球の歴史にとって重要な時期に来ている』とある。コフィ・アナン前国連事務総長は、SDとは抽象的であるが、人々に落としこんでいく、とダッカで話した。ダッカは、気候変動をとめなかったら影響を受ける国でもある。
 人類の大きな挑戦に立ち向かうための民意とは、リーダーシップをとるような政治家に投票できることであり、これが民主主義である。
 昨日の会議(ESDの10年・地球市民会議)の話は後でする。
 2009年4月、書簡を書いたアメリカ教育長官のコメントには、オバマ大統領が、私たちが全ての力を持続可能性に向けた教育に力を注いでいることに敬意を払っていることがわかる。アメリカの政権もSDについて関心を持っている。
 これまで、一般的に、教育がどのようなことをやってきたのかというと、消費や生産のパターンを変えることが出来なかった。そして、高等教育に行けば行くほど、破壊的な生活をしている。CO2問題しかり、アメリカしかり、多くの国で教育の機会が高いところほどである。だから、教育システムを変えなければならない。このことによって、就学以前から高等教育までがお手本となって、長期でSDを導入していかなければならない。
 ユネスコはESDを提供している。ESDの特徴は、多面的であるということ。そして、経済・社会・環境それぞれの条件とプロセスを組み込み、学際的・統合的であるということ。ある一つのテーマや学科ではない。多角的、統合的であり、垣根を越えていくことである。重要な特徴は、民主主義であり、民主主義的な作業である。例えば、学生が教育プログラムの設計や、教育のプログラムに貢献したり、勉強したりすることに参加することである。また、課題解決や批判的思考を刺激するもの。それは、先生が言うことを受け入れるのではなく、批判的であり、そのような行動を培うことである。ESDを学び大学を卒業したら、SDについて行動することである。SDのコンセプトの一つは、経済、社会、環境の3つの側面があり、同時期に行うこと。つまり、問題があると、解決するときは、この3つを同時に解決することを考えなければならない。
 全ての学校、大学のテーマに、ある見方、視野を与えてくれる物だと考えなければならないESDをすると重石になるからと言うことではなく、先生方の視野を広げることを助けることだと考える。学生・児童も教えられている立場だけど、一人の市民として認識されるべきである。批判的な考え方、質問、疑問を投げかけることの能力開発が大切。これまで前例がないので、探りながら行っていく。
 2年前、国連の会議に参加したとき、大学にESDを盛り込む、大学の役割というのが確認された。大学の指導層、教授陣も責任を負わなければならない。大学のメインストリームにすること、それはどういうことかというと、教育を考えたときに、ESDが当たり前なように入っていなければならない。そしてそれは、生徒や生徒会のような団体が参加する機会を通してである。参加が大事である。
 ESDを行えば、評価も言われる。例えば、オランダがいいと聞く。定量的な調査を行った。
 ESDは大きな概念だが、その始まりとして持続可能な消費が挙げられる。低学年などに導入する。就学前や幼稚園などにも教えると、ESDの土台が培われる。
 学校だけでなく、社内教育、CSRなど、洞爺湖サミットでも提言した。
 ESDの過程には、トップダウンとボトムアップが必要であり、一人ひとりが責任を持つことが大事である。人類学者、マーガレット・ミード「少数の志ある人の力を過小評価してはいけない」。それは、阿部先生や同僚が日本政府に働きかけ、サミットで提言し、DESDにしたこともまさにこれである。小さい動きが大きな流れを作った。
 東京の国連大学の総長が、ESDのために世界中でリンクをしましょうと提言した。大学、様々な学校、植物園など、知識の専門センターとして、世界で60箇所ある。アジア太平洋地域にもある。ほかの戦略もある。欧州経済委員会など、ネットに掲載されている。
阿部:スウェーデンは、高等教育法にESDが盛り込まれている。スウェーデンが一番、持続可能な国だと思っている。そして、具体化している国でもある。

質疑応答
カール:スウェーデンでも街角で誰かに聞いて、ESDを知っているかと聞いても、いないだろう。しかし、先生の中では、昨年から増えてきており、ネットワークも作ってきている。また、町によって異なる。日本と同じ問題をスウェーデンでも抱えている。
参加者:日本の文科省がユネスコスクールを増やそうとしているが、なかなか広まらない。初等教育の具体的な活動を教えてもらいたい。また、ネットワークを作るのは難しいと思うのだが、ネットワーク内の活動を教えてもらいたい。
カール:ユネスコスクールは、ネットワークとしては優れているが、改善も必要。浸透のための手段としてはいい。今、ユネスコがもっとネットワークを強力に活用しろと言っている。
 中等・高等に勧めるには、先生への教育が必要。先生方のネットワーク、あるいは守備範疇で、広げていくこと。スウェーデンは日本と同じで、南北に長く、島国である。しかし、現在は、インターネットなど、資料が簡単に手に入れられ、どこでもアクセスでき、教材もある。ネットワークも作って、ESDの重要性を語っている。先生や、他のネットワーク、科学者のためのSDなど。ネットワーク対ネットワークをつなげる。大学間でのネットワークとして、200大学に事務所を設け学長会議を行い、お互い何をやっているかなど、ネットワークを作ることが大事。
参加者:誰が音頭を取るのか?ユネスコ?
カール:ユネスコ国内委員はすでにネットワークがあるので、これで推進している。グローバル・スクール、スウェーデンの国際協力支援組織など、教師の支援をしており、この中でネットワークを作っている。しかし、政府がネットワークを強制したわけではなく、ネットワーク、あるいは教師が、もともとあるネットワークを活用した。
 スウェーデンが成功しているから、そこから学ぶ、というのには賛成していない。まだまだ活動しなければならない。RCEが国際会議を主催している。EUは、グローバルなアクターであるが、スウェーデンは、今年一杯EUの議長でもある。そこで、国連大学学長のヒンケル学長がスピーチした。そのような場所で理想やアイデアを述べる。スウェーデンはまだまだやらなければならない。だから、このような、議論する場で交流することが一番大事である。
参加者:トップダウンプロセスが重要とあったが、国の政策としてか、学際的にか?
カール:どちらのプロセスも必要。例えば、日本もスウェーデンも、国のカリキュラムなど、文科省の影響は大きい。大きな影響をもつ文科省、あるいは市の政治家などは権限がある、というよりは、責任がある。みんなが責任を持っている。だからボトムアップということにもなるかもしれない。それぞれを信頼、学びあう。友達通しのネットワークでは、誰かにやれといわれるわけではない。もし政府が責任をもてなければ、市民が代わってやる。それが、民主主義の世界。トップとボトムが組み合わさる。アメリカは過去8年関心がなかった。だから、連邦政府が関心をもたなかったら、市長が全員やり始めた、イニシアティブをとった。ボトムともいえるが、市の中ではトップとも言える。市民の責任、先生、科学者、ジャーナリスト、親、これらがボトムである。
 日本の会社、トヨタはアメリカやヨーロッパでマーケットが成功している。それはなぜか?SDに貢献する車のマーケティングをしているから。SDを全部盛り込んでいるわけではないが、アメリカやEUに比べたら盛り込んでいる。スウェーデンの経産省の役人がトヨタと話したとき、環境にいいことをやることに感銘を受けた。それは、アメリカのビック3がどうなったかを見ればわかる。
参加者:ESDの評価軸は?
カール:オランダはあまり分からないが、いい例としてあげた。まだ完璧ではない。UNECEのHPをみて欲しい。評価の説明は2004年なので、その後、手が入っているのではないか。ESDをやったらやりっぱなしではなく、その後の評価も必要である。
参加者:企業が取り組むESDとして、ほかの事例は?
カール:スウェーデンのイケア。2003年6月の北欧3カ国会議で聞いた。イケアのコンセプトは、環境に優しいだけでなく、社会にも優しい。会社でSDに取り組んでいる。また、ボン会議でアメリカ人と話をした時に、いろんなアメリカの会社のリスト本を持っていた。CSRに優れた会社など、アメリカの会社が連なっているらしい。会社の将来を考えたときに、SDを考えなければならない。ただし、消費者が先行しているが。
参加者:大学のグローバル化が進められているが、ESDにも効果があるのでは?スウェーデンの大学とも交換留学しているが、せっかく留学してもESDがない。
カール:交換留学の中にESDやSDがない。教育プログラムなのに、これは問題である。交換留学というのは、持続可能な教育である。では、どうやったらいいのか?日本史などいろいろな学問をそれぞれが専攻しているのだが、ESDを共通項として行う。交換プログラムと言っても、EUの中だが、これだけお金を使っているのなら、ESDを普及するプログラムを入れるべき、と提言したことがある。グローバル化の今、持続可能な社会を作るために、共に戦い、同じ理解をもつべきである。残念ながら、まだ出来てない。
参加者:ドイツの大学の成人教育について研究している。大人になると価値観が変わってしまう。となると、就学前に教育をやっても?生涯教育など?
カール:非常に幼い子供に、環境に優しいと植え付けるのは難しい。もちろん、家庭でも出来るが、教育に組み込む。就学前を教えている先生にESDを教えることは好き。というのも、責任感が違う。ただし、これらの機会が無い人はどうするのか?確かに、どんどん進学していく。しかし、皆に機会はある。大人になってもある。その可能性として、ロシアのペテルブルクで教えている先生の話で、就学前にESDを行ったら、家に帰って祖父や祖母に話し、その後、学校につれてきた。孫がやったら、祖父母も学ぶ。生涯学習である。学ぶことに遅すぎることは無い。就学前に育むのは大事だが、いつでも学べる。スウェーデンは生涯学習が発達している。私のような年齢でも大学に戻って学ぶのはおかしくない。初等教育で重要なのは、確かに環境に優しいと言うのもあるが、SDの社会的側面、男女平等など強く教え込んでいる。社会への教育側面もある。デザイナーやシニアの方など、ESDなど知らない。
参加者:ネットワークの話があったが、自分自身はそこまでネットワークに力を入れていない。何かネットワークに入るためのキーワードとかあれば?高くても買うような消費者への何か?また、イケアが日本に来たことで、日本の会社にダメージを与えた。
カール:シニアの方にどのようにネットワークに入ったほうがいいのかを説明するには、日本にすでにイニシアティブがあるはず。ESDは知らなくても、やっているかもしれない。だからESDには入らないかもしれない。それでも、何のためにEがついているのか、を考えるべき。幼稚園から会社に至るまで、自分や自分たちのグループにとってどのような意味があるのかを考える。あるいは、非持続可能な社会とは何なのかを考えてみるのもいいかもしれない。持続可能な社会という言葉はとてもとっつきにくい、分かりづらいというのもある。ただ、自分の行動がSDなのかどうかを考えてみる。
 イケアのことは詳しく知らないが、熱帯雨林の問題など、その製品がどこから来るのか、フェアトレードなのかどうかが大事なのではないか。消費者は、関心があるかないかがまず問題であり、問題の性質を見ること。例えば、エコバナナと普通のバナナがあったら、スウェーデンの消費者はエコバナナを買う。あまり高くないから、というのではなく消費者の認識である。エコなのかどうか、あるいはエコな物がなければエコな物を出せといった消費者を作り出していくのが大事。
阿部:本日は、ボン宣言やアミダバド宣言を配布した。ESD研究センターのHPにUNECEの翻訳もある。
ASPユネスコスクールは、小中高でESDを推進していくプロジェクト。昨年までは25校だった。この5年間で500校にし、ESDのモデル校にしていく。しかし、学校でのユネスコスクールがなかなか難しい。今年、これを支援するための大学ネットワークが出来たので、順次広まっていくのではないだろうか。
ネットワークに入る意義は、まず1つに、知る事を学ぶ、グッドプラクティスを学ぶ、ネットワークに入ることで学ぶことである。二つ目は、励ましあうこと。新しいことをやる、チャレンジに向けて。3つ目は、一人では出来ない。大きな力になる。一人ひとりの力を合わせて、大きな力とする。
 自分たちのこれまでの活動がなんだかわからなかったが、ESDが出てきたことによって位置づけることが出来る。それは、大きな流れとしてESDが出て来たから、わかったことである。そしてESDを作るためには対話が重要である。

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