ESD研究会「参加型学習を通したタイ・日交流事業の成果と課題」が10月7日に開催された。今回は、大きなテーマを「開発教育・ESDにおける国際協力の成果と課題」とした。まず、ESD研究センター・アジアチームならびにNPO法人開発教育協会(以下、DEAR)のこれまでの成果と経緯について説明がなされ、今回の報告との関連が示された。ここでは、持続可能開発促進研究所(以下、ISDEP)の所長ブラヤット氏との関わりも取り上げられていた。次に、DEARのワークショップの手法がタイにおいてどのように導入されたのか、報告者も参加した2009年度ISDEP人材養成セミナーをもとに、現場のNGOと参加型のNGOの連携が生まれるまでの過程が話された。
1)ESDセンター/DEARとタイの交流事業の成果
これまで、日本における地域での参加型開発の実践方法を、タイのチェンマイにおいて「参加型の研修」の取り組みをおこなってきた。2004年にISDEP所長であるプラヤット氏と田中治彦氏(立教大学ESD研究センター)が会談し、その年の8月にはISDEPのスタッフ養成研修において、国際貿易の不公平さを実感するための「貿易ゲーム・ワークショップ」が実施された。実施後には、タイにおける1年に1回のワークショップの開催などがISDEPより要望され、現在までセミナーならびにISDEP若手スタッフ養成プロジェクトに参加している。2007年から開始された若手スタッフ養成プロジェクトでは、第1回(2007年)「援助する前に考えよう」「パーム油」、第2回(2008年)「ケータイの一生」を実施。第3回となった2009年は、タイ語に翻訳されている「100人村」の紹介や『地域から描く開発教育』をもとにした日本の事例が紹介された。また、日本で用いられている教材を、タイの実情にあわせたハンドブックとして再製作する取り組みがある。
例えば、『携帯の一生』は消費者を意識した教材である。しかし、タイ国内のインフラ不足のために、携帯の方が便利であるという実情を考慮してのハンドブック作りが進められている。
2)2009年度ISDEP人材養成セミナー報告
今年で3年目となるアクション・リサーチ(分析⇒発見⇒解決というプロセスをとる)では、①カリキュラム、プロセスをお互いの学びの中で考えていく。②NGOスタッフやリーダーの人材育成。③教訓や学びをもとにしたマニュアル作成をおこなうことを目的としている。特に、今年はこれまでの学びを踏まえたマニュアル作成が主な目的とされた。
今回の報告では、NDF北タイ開発財団(NDF)の土地開発プロジェクトならびに「社会開発のためのトレーニングプログラム」(以下、YT)が紹介された。土地開発プロジェクトは、地域による「土地のアレンジメント」に取り組み、個人の問題をムラ全体の問題へと広げようとする。なお、YTではタイ・チェンマイの若者約30名ほどが参加した。彼らは、グローバルな情報をローカルの問題として読み換えていく。その上で、「村に残る」ことを目的としていく。このプログラムではローカルウィズダムに着目し、それをめぐるいくつもの実践をおこなう。この実践のあり方は、地域で暮らしていくための根をはる試みであると言えるかもしれない。一方で、グローバリゼーションの影響を否定せず、自らのムラのありようとグローバル社会の中での消費者として「選択」を考える取組みもおこなっている。報告の中で紹介された社会のために働く若者人材育成を目的とした団体、「北タイ新世代グループ」とも近い。日本側からは『地域から描く開発教育』で取り上げられた事例などが紹介された。タイの人びとからは特に、アイヌの事例について関心が示された。
1980年代からNGOの活動をおこなっているチャチャワン氏が主催する「ランナー・ウィズダム・スクール」は、セミナーなどをおこなうのではなく、北タイ(ランナー)の伝統文化を伝承する施設である。そこでは、地域の文字や音楽・建築などを学ぶプログラムが用意されている。また、チャチャワン氏は「以前に、開発教育を紹介されても、興味を持たなかっただろう」と言う。一方、近年になって、開発教育への興味を持たれやすくなった言う。その理由としては、自由貿易協定(FTA)の影響があるとする。この課題に対して、チャチャワン氏たちは、グローバルの影響を含んだ地域の課題に対して「参加型農村社会調査」(以下、PRA)を用いていく。なぜなら以前、村内での生産性をあげるためにおこなった、「上からの開発」の取り組みが失敗に終わった経験を持つからだ。つまり、近代農業をおこなっても、村人に十分理解されるまでには至らず、失敗に終わってしまったのだ。
だからこそ、村人たちにも馴染みやすい地域にあったものを入れて、村づくりをおこなう。それは、「ある」から出発する取り組みであると言えるかもしれない。また、PRAを確立したロバートチェンバースを招いて、学ぶ取り組みもおこなわれている。一方で、グローバリゼーションの一つとしてFTAなどの影響が強まった時には、PRAでは難しい点があるとする。そのため、タイ語に翻訳されている『貿易ゲーム』などが使われるようになったと言う。タイ語に翻訳されたテキストたちは、村人、現場方のNGO、参加型NGOなどをつなげる役割を担いながら、北タイで用いられている。別の言い方をするならば、「やってきた事を可視化する」取り組みが、参加型開発のもとでおこなわれていると言えるだろう。このような取り組みによって、参加型開発への理解が、運動を中心とした取り組みをおこなっている人たちのあいだでも促進されている。
今回のセミナー報告とは別に、ESD研究センターの前身でもある東アジア地域環境問題研究所も関わったピン川をめぐる環境教育ならびに総合学習などが、タイのバンコクに本部がある「タイ・ボランティア・サービス」と開発教育協会(DEAR)などによって2002年より開催されていることが紹介された。
3)質疑応答
質疑応答では参加者からさまざまな質問があった。質疑の概略を紹介しておく。
- NGOの活動実践における、日常言語について
NGOの活動実践のあり方としては、タイ語でおこなわれ、日本人には逐語訳でおこなわれている事が紹介された。
②スタッフ養成プロジェクトとNGOの立場について
スタッフ養成プロジェクトの主な対象は、農家の人びとである。NGOは、生産者の立場から消費者のニーズのあり方にかかわり、継承者の不足の側面を補う、いわば、村の後援会の側面があるとされた。
③外からの技術について
「外の技術」を持ち込んでも、受け入れる側が未発達の場合には、訳に立たない。参加型開発・教育のように対話が大切であるとされた。
④グローバリゼーションと地域の文化
「グローバリゼーション」という村のコミュニティの外から入ってくる要素に対するいくつかの質問があった。報告者のリプライを要約すると、次のようになる。地域の文化として文字の持たない文化もある。そのような文化において、「学校制度」が入ってきた時どうするか、という論点がある。このような論点は、社会問題として発見もされうるし、地域性に出会う教材でもあるとされた。
⑤報告者からの感想
DEARの教材は、もともとは主な対象を消費者と想定していた。しかし、タイとの交流の過程において、農村でも教材の中に入っているエッセンスを共有することできると確信したという。また、北タイの現場では解決させたいものがはっきりしている。メッセージ性をとらえて、アレンジしていくことの必要性を実感した。
今回の研究会の参加者からは、ワークショップ/PRAの取り組みが広まることを期待する声も聞こえた。個人的な意見を述べるならば、コミュニティを守りながらオルタナティブ社会を構想していく試みが語られ たように思われる。タイ国内での活動の普及やタイ以外の国でも、その展開は求められていくだろう。また、これまでの実践活動が、少子・高齢化社会の姿が現実味を帯びていく日本社会で、いかにして適用可能かも同時に求められることになるように思われる。 |