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イベントレポート

【2009/11/24(金)ESD研究会 「2021年のスウェーデン」プロジェクトの概要】

  櫃本真美代(ESDRC)
日時: 2009年11月24日(火)17:00~19:00
場所: 立教大学5号館 5306教室
題目:

「2021年のスウェーデン」プロジェクトの概要

講師:

Anita Linell(スウェーデン国立健康研究所)

主催:

立教大学ESD研究センター

    

 スウェーデンから、スウェーデン国立健康研究所所長、アニタ・リネル氏をお招きし、「2021年のスウェーデン」プロジェクトの概要についてのご報告と参加者との質疑応答を行った。

阿部センター長からの挨拶
 スウェーデンは、国連人間環境会議が開催された国である。なぜスウェーデンで行われたのか、環境に関してどのような国なのか、学生の時に思っていた。非常に民主主義が定着しており、環境に関心も高く、環境を共通の問題としてとりあげた最初の国にでもある。
 1998年に、2021年に持続可能性になろうと当時の環境庁が作った。その時のリーダーがアニタ氏である。これは、日本の環境活動家にとってもかなりショックな出来事であった。
 鳩山内閣が、CO2を25%削減すると言い始めた。持続可能性の問題は、日本がイニシアティブを発揮しなければいけないのに、発揮できていないのが現状である。
 また、レーナ氏(通訳)は日本とスウェーデンを行き来しながら、二国間の交流をしている。

レーナ氏からの挨拶
 日本の環境政策を20年見てきた。95年からは、スウェーデンの方も見てきた。両国には環境問題があり、その解決に力が注がれ、90年代から持続可能性について建設的な話になってきており、とても希望のある話だと思った。ただし、両国の違いは、スウェーデンは、持続可能性に向かおうというコンセンサスがあるが、日本ではそのコンセンサスが無い。一つの大きな相乗効果、力となって行っていない。前向き・建設的なスウェーデンで、アニタ氏が重要な役割を果たしてきたのである。

アニタ氏の紹介
 「2021年のスウェーデン」を作ったときは、環境保護庁の職員だった。スウェーデンが持続可能性のための目標を作るために、環境目標委員会を作ったときの調査委員でもあり部会委員でもあった。現在は、国立健康研究所の職員である。環境からなぜ健康なのか?と思うかもしれないが、持続可能性とは、環境だけではない。健康や福祉、スウェーデンではアルコール中毒が問題になっているなど、広い視点から、持続可能な社会を見ている。

アニタ氏の講演概要
 皆さん、立教大学に招いていただきありがとう。とても光栄である。
 今日の話の内容は、スウェーデンの持続可能性のための政策プロセス、つまり“2021年”のプロジェクトや環境政策が決定されるまでのプロセスとそれを成功させるための要因についてである。
 日本とは共通点がある。近くに海があって、75%は森林に覆われている。そして、日本とほぼ同じ国土面積である。また、世界中で寿命が長く、両国では、年寄りが増え、子供が減少している。
 スウェーデンの環境政策は、リオで採択されたアジェンダ21から始まった。「2021年のスウェーデン」プロジェクトは、1993年から始まり、98年に終わった。
 現在は、政策決定してから10年経過しており、どのような結果になったのかもわかっている。
 “2021年”の背景には、アジェンダ21が、全ての国で、持続可能な社会のための計画を作らなければならないとしているからである。そして、スウェーデンでは、まず、各セクターに環境への責任を課し、各公的機関が各事業で環境に対しての責任を持たせた。
 次に、プロジェクトリーダーのときに、“2021年”の報告書の中で、持続可能性について、現実とのギャップが大きいということも分かった。この“2021年”は大きなチャレンジである。環境保護庁が始めて、未来に向かって、行動を狙った取り組みであり、調査でもある。そして、各セクターは、新しい責任が出来たので、この調査に参加できるという手法が必要だった。
 3つ目のチャレンジは、複雑な調査であったこと。国が丸ごと、周りの世界とどのように関わっていくのかということであった。この調査の対象の分野は、基礎産業と農業と林業、製造業、林業の加工、食品、消費者向けの製品、住宅、上下水などであり、運輸とエネルギーも含まれている。この調査で使われた手法は、自然科学が基本であり、研究者は長期的な環境目標を提起した。
 例えば、具体的に温暖化対策を採るためには、CO2を90%減らす、大気汚染も70%減らす、酸性雨は70%減らすなど。富栄養化や有害な化学物質の削減も必要であった。
 これらは、一世代内に実現する必要がある。ただし、温暖化に対しては、100年かけてもいい。各セクターのステークホルダーが一緒に、これらの目標を達成するために、一世代以内に各セクターがどうなるかを打ち出した。
 持続可能なイメージには、違ったイメージがあることがわかり、二つのイメージがある。研究者と専門家が、それらのイメージの影響評価を行い、本当に持続可能なのかを調べた。その上で、各セクターのための、一つだけのビジョンを作って、どうやって実現するのかの対策を作った。
 2021年が終わったところで、これに基づいた内閣からの法案が提出された。その法案でスウェーデンの現在の環境の質の保護の目標を作成した。例えば、化学や物理的な環境、大気汚染、酸性雨、オゾン層、放射線、富栄養化をなくしていくこと、様々な生態系システムについて等。
 次に政府は、2010年までの中期目標を定めるための法案を作った。政府の調査委員が作ったのは、狙いに3つのレベルをつくり、政治家はそこから選ぶようにした。また、3つの戦略も作った。一つは、より効率のよいエネルギー使用について。二つ目の戦略が、毒の無い資源、効率のよい使い方、エコタイプなもの。3つ目が土と水の資源管理。この調査委員会も環境とは全ての人の責任であると、明確にした。
 調査が終わった1年後に、二つ目の法案が作られ、70ほどの中期目標が作られた。これは、時間的に限定されてはいるが、実現可能なもので、測定可能なものである。
 3つの戦略も採択され、また、政治家が毎年のフォローアップも必要だとし、4年に1回はより深いフォローアップ調査も必要だと決めた。さらに、政府の中央機関と各県にある出先機関にも責任を与えた。
 この期間、大きな出来事もあった。特に、98年には環境法典が始めて出来た。2003年には、持続可能な開発をスウェーデンの憲法に明記した。また、スウェーデンのための持続可能な開発戦略も明記され、何年か経つと見直しをした。そして、10年経った今どうなっているかと言うと、ヒアリングが行われた結論は、スウェーデンの環境目標は包括的なものであり、ユニークであり、かつ、これらは政策的なコンセンサスに基づいており、正当性がある、ということがわかった。よって、各行政機関がこの方法について自信を持っている。
 例えば、環境目標の中で、成功している物を紹介すると、正常な大気、オゾン層の保護、酸性雨を自然の範囲にとどめること、良好な都市環境等がある。
 まず、大気汚染物質がどのように代わったか、90年から2006年までの状況だが、全てが減っている。水の酸性化は80年はとても悪い。湖が酸性化されたため、生物がたくさん死んだ。現在は、だいぶよくなった。一番達成されたのは、石油消費量が減ったこと。スウェーデンのエネルギーの多くは水力発電なので、クリーンなエネルギーである。
 一方、あんまり達成できなかった物は、温暖化もその一つで、毒物の無い環境、汚染物質としての金属や環境中に長く残る化学物質のこと等である。また、海洋環境、生物多様性も達成できていない。
 政府が生物多様性の高い土地を保護するために購入している土地目標も、まだ達成できていない。野鳥の数は減ってきている。特に危機的なのは、農地に住む鳥たち。日本ではうなぎを食べると聞いている。うなぎは繁殖のために海に行って、若いうなぎとして戻ってくる。海の真ん中で生まれたうなぎの子供が各国に戻ってくるのが少なくなっている。スウェーデンだけではなく、様々な国が抱えている問題である。
 なぜ、政策作りが成功したのかというと、将来は、どういうイメージになるかを研究者が一緒になって、具体的に描いたからである。政治家は測定可能な中期目標について決定した。ステークホルダーは最初から関わっていたので、政治家が決定すると、ステークホルダーも受け入れた。つまり、研究者や専門家が参加したことによって、目標が実現可能なものになったのである。政治家はちゃんと時間を限定して、明確な締め切りのある決定をした。これを、英語の頭文字をとってスマートという。1954年に導入された理論で、Druckers が作った。ここで大事なのは、ステークホルダー、専門家、政治家がみんなで参加し、それぞれの役割を演じ、責任を果たしたことである。
 最後に、これまでの経験から日本について言えることは、政策はそれぞれの社会環境に依存しているということである。これから滞在する間に、このことについて議論をすることを楽しみにしている。

阿部センター長から
 地球サミットがあったときに、アジェンダ21、国際的な行動目標が出された。西欧では、委員会が作られ、スウェーデンはまとめ役であった。西欧として持続可能な開発の戦略を作成し、それに基づいて各国はどういう方向で向かうのか、経済・教育など、持続可能な社会を、どう達成するのかを議論したが、日本では作っていない。
 一昨年、環境立国政策が出されたが、自然に限定したものであり、西欧のような包括的なものを造っていない。日本に欠けているものである。これは、政治家にとっても大事な使命であり、明日・明後日、国会図書館で議論できればいい。環境を含めた、持続可能な開発のビジョンではなく、それを作り上げていく、人材・人材育成にまで話は広がっていくものである。
 お二方からは、スウェーデンだけがいいのではないが、こういう国もあるのだと、オルタナティブな、それぞれの国の持続可能性について、話が聞けたと思う。

質疑応答(敬称略)
学生:この取り組みによって、国民の意識の変化はあったのか?
アニタ:変わったと言える。アジェンダ21は、世界の国々が各自治体で取り組むことであり、スウェーデンは積極的だったので、より地域に密着した取り組みを行った。人々は積極的であり、自然を大事にしたいという意識は高い。具体的には、人々は、燃費のよい車を買ったり、廃棄物の分別、生ごみの分別など、これを使って循環できるようにしている。また、地域で生産された食品についても関心が高い。
学生:エネルギーの多くが水力発電だというが、ダムなど、水をためることによって、生物の影響はあるのか?
アニタ:今使っている水力発電とダムは、40、50年前のもので、今は、ダムを造ることにはものすごい規制がある。
阿部:造れないと今後は?
アニタ:水力に力を入れるのではなく、風力に力を入れる。暖房のためのヒートポンプの導入や太陽熱でお湯を沸かせたり、太陽電池にも人気がある。
阿部:この計画が入ったことによって、国民の意識の話があったが、昨年車の補助金が出たと聞いている。日本でもプリウスに補助金が出ている。スウェーデンでは、昨年政策にとりあげられ、低公害車も多く走っていた。生ごみ燃料なども、普通にスタンドにおいてあった。国民生活にかなり浸透しているようだ。
アニタ:政府が取っている政策は、自治体に対する補助金で、自治体が農産物からの廃棄物からバイオガスを作る。そして、車の燃料や市バスなどに使用し、それに政府が補助金を出している。
学生:「2021のスウェーデン」について、人口が日本とは違うと思うのだが、調査する対象も異なってくるのではないか。となると日本では難しいと思う。また、スウェーデンでは、その時の状況を正しく捉えられたのか?
アニタ:この調査では、都市部と地方では違った解決策が必要であるということがわかった。スウェーデンはとても寒く、冬の間は暖房が必要である。地域暖房のための大きな施設では、熱供給をしながら発電する。これはとても効率がよいことが分っている。また、貨物の運搬は長距離なら鉄道を使うべきだし、到着した短い距離ならトラックがいい。人の交通は、乗換えが簡単である必要がある。というのも、車を使ってしまうから。また、リサイクルすることも大事である。電子機器など、全てリサイクル出来る物は出す。さらに、都市部では、密度の高い都市の方が効率がよい。となると、東京はよいとなる。しかし、その中で呼吸をするスペース、緑の場所を造ることが必要である。また、地方だと、通信技術、ITをよく活用するようにする。つまり、毎日通勤するのではなく、週に1,2日家でも仕事が出来るようにする。通勤距離が長いので、私の職場でも行っている。
学生:各セクターの責任者だったり、政党だったり、担当者が代わった場合、政策がゆるくなったりすることは無いのか?
アニタ:継続的なプロセスであり、フォローアップが大事である。4年毎にフォローアップ調査を行い、政府機関が毎年提案をしている。そして、この目標を達成しなければならないと、政府から命令されているので、かなりやらないといけない。
学生:スウェーデンなど、北欧は環境政策が進んでいるが、なぜ北欧で成功しているのか?
アニタ:スウェーデンの人は、自然に対してとても関心があり、自然を守りたいという意識を持っている。また、自然に対して立ち入り禁止をしないで、市民が入れるような権利を作っている。また、小さい時に学校の中で自然を大事にしようと教わってきた教育がある。
学生:スウェーデンの学生によく見られる意識や行動とかは?
アニタ:例えば、自分の息子が26歳になるが、友達二人と一緒に古い車、ヴォルヴォを組み立てて、チップを燃料にしてガスを作って走るように改造し、500キロ走った。
阿部:自転車がすごい。
アニタ:学生は、よく自転車を使っており、ウプサラ駅は自転車の海である。
阿部:自転車専用道路もある。
アニタ:自転車道路が郊外から市内まであり、それで通勤している人も多い。
学生:ステークホルダーの話があったが、日々の生活の中で、自分が環境に責任があるという意識がなかなか持てないが、何かよい事例があれば?
アニタ:容器包装の分別を最初に行ったが、その時、自治体が回収システムを作った。その制度に参加して、使いやすかったので、次に暖房は、もう少し温度を下げてもいいのではとの話しに繋がっていった。また、食料については、無駄をしない、捨てない。近いところで生産された物を買うことによってエネルギーを節約する。たんぱく質は動物からではなく植物からとることで、エネルギーの節約になる。交通は、車をおいて電車や歩きなどにする。これらは、幼児の時に、環境教育がかなり進んでおり、環境に対する意識への芽生えにもなるのではないか。
学生:森の教室の今現在の広がりは?
アニタ:現在は分からないが、教室、教育が小さい子を対象に普及している。自然を体験して、自然から得ている。
阿部:自然学習、ムッレを全て行うという学校もある。
アニタ:仕事として環境関連の職につきたい人、やりたい人はいるか?(挙手した人は少ない。)
阿部:環境関連の仕事はいろいろある。CSRやNGOなど。スウェーデンでは、環境に関連する職業は成り立っているのか?大学生の人気はどうか?
アニタ:一定の規模の企業は、環境の部署をおいており、専門家がいないと対処できないと言う状況である。自治体も法律に沿って、監守しなければならないので、人を置いている。割と多くの学生が環境について勉強しているし、職にも就いている。
阿部:昨年スウェーデンのCSRについての報告書は、センターで作成しているので参考に。
阿部:初めての日本の感想は?
アニタ:全部がうまく機能しており、清潔である。夫と二人で、こんなに人が多いのになぜ機能できているのか、不思議である。また、親切で、礼儀正しい。細く見え、太った人はいない。
阿部:今日の話や質問も含めて、環境の話が多かったが、このような状況を作ったのはスウェーデンでの民主主義、平和、男女間の公正など、いろんな要素が背景にあると思うが。
アニタ:この20年、30年で、男女平等について大きな変化があった。男性が乳母車を引いて、育児休暇をとっている。若い男性は、誇りに思いながら、子供の世話をしている。政府もこれは意図的に勧めており、一部では、男性が育児休暇を使わないと、使えなくするようにした。
レーナ:平和が大事だと思う。スウェーデンでは、200年間戦争が無い。だから、平和は当たり前だと皆が思っている。他の国は、破壊され、修復に時間をかけた。スウェーデンではそのようなことが無かったので、着々と国内の整備を進めてきた。
阿部:民主主義といったが、市民教育と言ったものは?
アニタ:全く同感である。皆が参加することが大事である。共通の未来を作ることに個人から組織まで、皆が参加することが大事であり、共有することが大事なのである。
阿部:持続可能な社会のための目標を作っているが、原子力発電の廃止を決議されたが、昨年新たな政権は、今まで目指してきた持続可能な社会の道を変えようという感じに見える。そして、そのような政策を選んだ国民の声もあるが、現時点での持続可能な社会の課題とは何か?
アニタ:“2021年”の調査の中で、原発の4分の3を廃止できると言った。消費者が関わればエネルギーは節約できる。ただし、電気代が、他の西欧と比べて安すぎて、人々が節約を考えない。本当に考えるのであれば、政治家は電気代を高くするべきである。しかし、選挙で負ける可能性があるので、やらない。恐らく、怖いのではないか。
学生:環境目標を設定して実行するとき、企業の反発は無かったのか?
アニタ:昔の事例だが、製紙産業が多く、その際塩素を使って漂白していた。それをやめさせる政策の時、企業は反対したが、市民からの声で中止になった。その後、技術が上がり、企業は、今ではそれを誇りに思っている。大企業は環境のことをアピールしているので、問題はないが、中小のほうが、職員が少なかったりなど、こっちの方が問題かもしれない。
学生:問題を解決するための環境教育から持続可能性に向けた明るい環境教育に向かっているが、政策や法律、教育もあるが、現在まだ成り立っていない。日本に勧める政策などがあるか?
アニタ:環境のことが、教育のことに入るように、政治家に決定してもらうための、圧力をかけることが一つの方法である。環境教育だけでなく、他の科目、例えば数学などに入れるなど。中期目標を定めた法律の中で、学校長が環境のことを教育内容に盛りこむ、ということを入れ込んだ。また、もう一つの方法は、教員養成の時にちゃんと環境のことを教えることである。ただ、難しい質問である。
アニタ:今日は、とても重要だと思う質問が出てきた。日本は、日本の実情があるので、どのような解決があるのか分からないけど、とてもうれしく思う。
阿部:日本との交流をこれらかも行って欲しい。また、無事に帰国してください。日本から行った時には会ってくれるとうれしい。

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