阿部治氏(日本環境教育学会会長)から挨拶(省略)
セッション1「子ども・暮らし・環境」をテーマとした各学会からの発表
①仙田満氏(こども環境学会理事長、放送大学教授、環境建築家)
仙田氏から、子どもの成育環境としての自然について話があった。
現在、体格はよくなっても運動能力や、やる気が低下しているという調査結果がある。また、外国との比較では、日本の子どもは孤独という結果がある。これらは、子どもたちが群れて遊ぶ自然が失われてしまったからではないだろうか。
過去50年間に劇的に自然スペースが消失し、子どもたちにとって、道が遊んではいけない場所になった。その分、テレビゲームなどで遊ぶようになり、外で群れて遊ぶ時間や機会が失われていった。
また、自然と遊ぶ場所が少ないだけでなく、大人が自然と遊ぶことを許していない。例えば、山には入るな、など。自然遊びの危険性に対して、全ての公園にプレイリーダーがいなければならない。
どこにいても自然体験をさせなければならない。自然学校をシステム化し、子どもたちが第2の田舎を持つことが出来るようにしたい。それは地域活性化にも繋がる。また、全ての校庭を自然体験が出来る場所にしてほしい。
②増田直広氏(日本環境教育学会理事、(財)キープ協会環境教育事業部)
増田氏から、キープ協会を事例に、環境教育の取り組みについての話があった。
キープ協会は、ボール・ラッシュによって設立され、立教大学とも親密な関係にある。
1983年に日本野鳥の会との覚書を経て、環境教育事業を開始した。自然と人、人と人をつなぐ環境教育を行っている。
対象年齢は全てであり、様々なプログラムを行っている。例えば、五感を使う自然体験プログラム、森林管理作業を体験するプログラム、大人対象のプログラムなどがある。また、天然記念物でもあるヤマネの調査研究も行っている。生涯学習として環境教育を捉えた場合、幼年期は、自然・人の中で(in)、学齢期は、自然・人について(about)、成人期は、自然・人のために(for)、が注目される。大切なのは、この3要素(in、about、for)の組み合わせである。なぜなら、最近は大人が自然に触れる機会も減少している事実があり、大人にもinの要素が必要であるからだ。
キラッと光る子どもの一言から、今後は月1回開催している「清里子ども自然クラブ」で収集している検証を予定している。
③緒方泉氏 (日本生活体験学習学会理事、九州産業大学美術館学芸室長)
緒方氏から、アートキャンプの事例から、文化芸術と生活体験についての話があった。これは、芸術家を目指し、資格授業を受けている大学生の実践・体験学習にもなっている。
このキャンプの目的は、仲間作り、森を歩く、感性の表現、Visual Thinking Strategyなどである。
子どもと大学生の事前交流を行った1ヶ月後のキャンプでは、キャンプを通して、子どもの思ったまま・体験したもの・体験したワンダーの絵を描かせる。そして、それらを見ながら体験をもう一度振り返る。作り出す喜びを体験し伝えることは、子どもだけでなく、大学生にとっても意味のあることである。子どもの感想には、楽しかったとあり、親も、子どもたちの帰宅後の表情を見て、キャンプに対して感謝の念がこもっていた。また、大学生からは、子どもたちと一緒に様々な体験の共有できたことが一番よかった、子どもたちの記憶力や想像力に驚きを感じた、子どもの気持ちの変化などが見れてよかったなどの声があった。
④佐々木豊志氏(日本野外教育学会理事、くりこま高原自然学校代表)
佐々木氏から、人の成育環境としての自然をテーマに、どのような姿勢で実践しているのかの話があった。
くりこま高原は、地震があった場所で、1995年に自ら作ってスタートした。研究ではなく実践を中心に活動している。200kmの川を下るパイオニアキャンプでは、大人がスケジュールを考えるのではなく、子どもたちに情報を与え子どもに考えさせることで、子どもたちの安全意識をどのように育むか、危ないから遊ぶなではなく、どのようにすれば安全に遊ぶかを子どもたちに考えさせる。
冒険とは快適で安全なCゾーン(Comfortable)を越えることである。Cゾーンとは快適で安全なところ。どのようにしてCゾーンを超えるか、自分の意思で考えさせる。非日常の体験を目的として入ったが、今は、農業がベースだと考えるようになり、ケ(日常)の活動を行うことになる。それにより、地域との関わりが増えた。ケの世界とハレの世界を、自然体験として組み合わせることが大切である。
セッション2・上記発表をもとにしたパネルディスカッション、各学会紹介
登壇者:岡島成行氏(日本環境教育学会副会長、大妻女子大学教授)、坂本昭裕氏(日本野外教育学会理事、筑波大学准教授)、南里悦史氏(日本生活体験学習学会会長、前東京農工大学教授)、阿部治氏(日本環境教育学会会長、立教大学教授)、仙田満氏(こども環境学会理事長、放送大学教授、環境建築家)
岡島氏:前半は実践・実例報告、後半は、学会の説明、そして4学会共通の話題を議論していく。
坂本氏: 日本野外教育学会は、1997年10月に設立され13年になる。「自然、ひと、体験」をキーワードに、野外活動、冒険教育、環境教育、森林・林業教育など多岐にわたる実践家と研究者をつなぐことが1つのねらいである。
現在、会員数は、550名程度で、正会員の所属は、大学・研究機関が7割ぐらいで、体育学、教育学、農学、林学などを専門領域にしている会員が多い。大学・研究機関以外は、小中学校の教員、国公立の社会教育施設、民間団体、大学院生などである。学会の事業として、年1回の学会大会の開催のほか、フォーラムの企画開催、また学会研究誌、ニュースレターを発行している。
学会の研究動向は、自然体験活動のなどの効果研究で心理学的研究が4割を占めており、やや偏りがみられる。今後、研究領域を広げアイデンティティを模索してゆくことが学会の課題のように思われる。この10年間の学会の目指す指針は、より多くの人たちに、自然体験活動に参加してもらうことであり、自然体験を「提供すること」「支えること」「広げること」の3つの視点から実践、研究することである。現在は、小学校長期集団宿泊活動を支援するプロジェクトを立ち上げて取り組んでいる。
南里氏:九州・福岡で設立し、12年目になる。生涯学習審議会答申のモデルにもなった福岡・庄内町の、日本で始めての通学型の生活体験学校から始まった。
約160名の学会であり、学校の教員、社会教育関係職員、大学院生、ボランティアなどが会員である。平成に入り、生活体験が重要に成るにつれ、全国から人が来るようになった。
行政が進める、総合学習をどうするかという点で活動している。また、日常生活文化、伝統文化、両方の文化の中で子どもたちがどのような状況にあるか、学会として追求していく。その中で、どのような自然体験が必要なのか、冒険的な活動をどう組織し、カリキュラムしていくかを、調査・実践、研究活動を支援していく。
1976年から、30年にわたって、子どもの生活を調査してきたが、子どもの生活は大きく変わり、現在、学校の時間の6倍もの時間が、子どもたちの生活時間として拘束されている。これをどう考えるか、学会では議論してきた。
学校・家庭・地域と連携し、遊びながら日常生活の文化をどう創っていくのかを学会では考えてきた。
阿部氏:日本環境教育学会は、1991年に設立された。学会の設立趣旨は、環境教育の理論と実践の統合を図り、学際的な活動を行うことである。現在、1700名ほど会員があり、その半分が大学の研究者、院生である。その他に、企業、NPO、小中高の教員など幅広く、学会の特徴でもある。また、扱っている分野は、幼児から高等教育まで、そして、自然社会、文化、学校のカリキュラム、評価などの問題、さらに国内・国外の様々な環境教育の思潮など、幅広い。
他学会との連携、諸外国との連携も行っているだけでなく、国際会議を行い、様々な環境教育研究者・実践家を招き、国内外の交流も行っている。
国内では、学校教育法・社会教育法が改正され、体験学習が明記されたがなかなか広まっていない、というのが参加者の共通の課題なのではないだろうか。
社会の変化だけでなく、遊びや自然体験に関する親の理解もまだまだ低い。その背景には、受験の学力として自然体験、体験学習が位置づけられていないのが大きな要因ではないか。
大方は自然体験を否定しない。そして取り組む環境も出来ている。今後は、根本の家庭や学校教育の取り組みが必要なのではないだろうか。
仙田氏:子どもの遊んでいる環境は、家の中や、公園、地域、山など様々であり、その学術領域も分かれている。このように縦割りに分断している形で、子どもの成育環境を考えているのは、政治的にも、施策的にも弱いのではないか。これが学会を設立した動機である。総合的な学術研究体制を確立したい。
学会と並行して、日本学術会議において2005年から、子どもたちの成育環境を統合的に研究発信し、かつ統合的な組織を支援するために子ども成育環境分科会という、学際的な分科会をつくった。今年で6年目になる。現在、約1000名の会員である。会員は、大学・研究所が半分、後は民間である。領域としては、都市・建築・土木など、教育・保育、小児医療・福祉
行政である。
毎年、大会を行い、提言を出し、学会誌も発行している。より多くの方、多様な方を巻き込みながら、子どもたちの元気や意欲を育てる社会環境をつくってゆきたい。最終的には、日本の大人の意識が問題である。子どもに優しい都市、あるいは国を作るということを、国民運動として広めていくことが、子どもの成育環境を考えていく上では、必要なのではないだろうか。
岡島氏:半分は独自だが、半分はどこかと一緒で、話を聞いているとオーバーラップしている。キープは理科的、佐々木さんは、冒険、緒方さんは芸術。自分の学会と残った学会を頭に入れながら、どのようなことが出来るのか、一言ずつ御願いしたい。
仙田氏:自然との日常的なふれあい、量的な自然を増やす。住環境に緑を増やす。幼稚園、保育園、学校を自然体験の活動の場にする。それには、時間がないといけない。方法や伝える人も必要である。プレーリーダーなり、ソーシャルワーカーなり、人の存在が重要である。親の教育も重要で、いかに理解してもらうかが課題である。
阿部氏:仙田先生と同感である。環境教育学会では親・指導者に注目している。幼児教育から高等教育まで、特に初等・中等教育の先生に自然体験の重要さを伝えたい。教員免許を取るとき、法律に何を履修するか明記されているが、そのような中に環境を組み込んでいく。教員免許状の取得者が毎年11万人、毎年履修者が20万人だとして、全員が環境の授業を取ることになる。座学が中心になるとは思うが、そのような中で体験学習を組み込んで行く。当学会だけでは無理なので、連携していくことになる。
南里氏:子どもと触れ合ったことが無い学生が多い。
学生は、子どもに触れ合ったことが無いから、きらきらする。また、大学に子どもを呼び込んで、動物、自然とのふれあいをさせると、学生の方がきらきらしている。体験して初めて専門とは何か、となる。基本的な生活体験の広がり、多様であっていいという認識がどこかで作られないといけない。単なるノウハウだけを知っているというのはよくない。
学校に学生を送り込むにも、学校の仕組みを変える必要がある。学校の役割(高等教育)、人材養成の仕組みを考えないといけないのではないか。
坂本氏: やや悲観的な考えであるが、人間は、一度獲得した便利さ、面白さを捨てられないのではないか。子どもが一度知った便利さやおもしろいTVゲームを捨て、もう一度自然との関係を取り戻すことはなかなか難しいのではないかと考えている。阿部先生が(自然科学技術の)リテラシー教育の問題といわれたが、確かに、これを子どもたちに大人が如何に伝えてゆくのかということを考えることが大切ではないかと思う。現在の社会の価値観、自然と人との関係について学会として考えていくことが大事であろう。そして、今我々が持っている自然科学万能というパラダイムを緩やかに変えてゆくことをしなければならないのではないかと考えている。
岡島氏:仙田先生からは、都市での自然を見直せば、子どもも楽しめるので、大人も気をつけるべきであり、学会としても考えていくべきであるとの話であった。阿部先生からは学校の先生に注目するという話であり、なんとかいけるのではと期待している。南里先生からは、学校の仕組み、あり方などの話であった。坂本先生からは、非常に重要で、緩やかに価値を変えていくという話であった。それぞれの特徴をあわせれば、うまくいくのではないだろうか。
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