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イベントレポート

【2010/7/7(水) 2010年度Eco Opera 事業

                      「生物多様性とESD-映像詩『里山』の上映と講演会」】

 櫃本真美代(ESDRC) 
日時: 2010年7月7日(水)18:30~20:30
場所: 立教大学 池袋キャンパス太刀川記念館3階 多目的ホール
題目: 生物多様性とESD-映像詩『里山』の上映と講演会
講師:

村田真一氏(NHK大型企画開発センター エグゼグティブ・プロデューサー)

司会:

阿部治氏(立教大学社会学部・異文化コミュニケーション研究科教授/ESD研究センターセンター長

主催:

立教大学

共催:

立教大学ESD研究センター

    

 本年10月、愛知県名古屋市において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。そこで、COP10の開催を盛り上げるだけでなく、まだ認知度が低い生物多様性教育、あるいはESDの一環として、生物多様性の場として重要な「里山」をテーマに、NHKドキュメンタリー『里山』の上映と制作者をお呼びし、上映と講演を行いました。

阿部治氏から挨拶
今年、愛知でCOP10が開かれます。日本は、「里山イニシアティブ」を提示し、世界の里山を保全するだけでなく、里山を保全することにより生物の多様性を守っていくことを提案しています。
日本の生物多様性の危機には、①開発による種の減少、②外来種、③里地・里山・里海の危機、と3つの危機があるとされ、里山が非常に強調されています。
本日は、今後私たちが、自然や里山とどのように関われるのかを考える機会となることを望んでいます。

「映像詩 里山Ⅱ 命めぐる水辺」
上映したのは、NHKが継続的に取材を続けている「映像詩 里山」の第二弾です。田んぼ、小川、雑木林―人と自然が共に暮らす、身近で懐かしく、かけがえのない日本の自然「里山」の映像美が見どころです。
第57回イタリア賞
第38回アメリカ国際フィルム・ビデオ祭 クリエイテイブエクセレンス賞 環境問題部門 教育部門
第11回上海テレビ祭 マグノリア(木蓮)賞 自然ドキュメンタリー部門
第1回ワイルドサウス国際映像祭 ベスト・オブ・フェスティバル
第28回国際野生生物フィルムフェスティバル ベスト・オブ・フェスティバル/最優秀賞/優秀脚本賞/優秀撮影賞/優秀音楽賞
ニューヨーク・フェスティバル2005 金賞 自然・環境部門

『覚えていますか、水辺で夢中で遊んだ、子供時代のあの日のときめきを。
滋賀県・琵琶湖畔には、水と深く関わった昔ながらの人々の暮らしがあります。集落の中には網の目のように水路がはりめぐらされ、人々はその豊富な水を利用し暮らしています。その水路を棲家にする生き物達もまた、人々の暮らしと密接に関わりあっています。
春を告げるコイのもんどり漁、初夏のよしず作り、水辺で人知れず羽化するオニヤンマ、晩秋のヨシ刈り、やがてやってくる冬…。人と自然が織り成す、命きらめく水の里の1年を見つめます。』

村田真一氏の講演
村田氏からは、これまでの経歴を含め、「里山」の定義や、「里山」の制作理由・撮影秘話などの話がありました。

NHKに入って約30年になり、これまで、例えば生き物地球紀行など、自然番組を作ってきました。最近10年は現場より企画、品質管理、予算管理などを行っていますが、「里山」ではディレクターとしても企画、制作に携わりました。
どうして里山なのか?何を描きたかったのか?
里山がテーマですが、本日見たのは(水辺)里山じゃないと思った人が多いのではないでしょうか。今は、生活の糧や燃料などを得る森、裏山、雑木林と定義されているかと思いますが、広辞苑に「里山」が載ったのは古くはありません。1998年の第5版からです。その前に専門的な農業や林業などの参考書では、「里山」という文字はありましたが、「里山」が人々に知れ渡るようになったのは、最近のことだと思います。
NHKが里山をテーマに番組作りを始めたのは15年ぐらい前のことです。NHKスペシャル「映像詩 里山」は3本あり、最初の『里山Ⅰ 覚えていますか ふるさとの風景』の放送は、1999年2月になります。その1年前に「里山」が広辞苑に掲載されたことになります。
撮影を開始したのは、1995年になります。なぜ里山をテーマにしたかというと、一人の写真家との出会いが非常に大きいです。それは、日本を代表とする自然写真家の今森光彦さんとの出会いになります。
今森さんは、滋賀県の琵琶湖畔に生まれ、ずっとそこで育ち、テーマである昆虫の記録や撮影をする傍ら、自分が生まれ育った琵琶湖のふるさとの風景を何十年にもわたって撮影し続けています。恐らく、今森さんが、初めて「里山」という言葉を今日的な意味合いで、ある雑誌に連載を始めたときに使ったのではないかと思います。それは1992年、マザー・ネイチャーズという季刊誌の5号になります。一般の雑誌で紹介したのは、私は今森さんだと思っています。彼は、ここで「これから自分は里山を撮っていくんだ」と宣言したのです。
1992年の時点で、今森さんは『原生の自然と人里をつなぐ暮らしの場。奥山、雑木林、田畑、人家など日本古来の農業環境のことをいう。』と里山を定義しています。
当時は、海外に取材にも行き雄大な自然を見る一方で、日本にも豊かな自然があることを認識していました。また、新潟で生まれ育ったのですが、身近な自然が失われているのを見てどこかで守らなければ、そして、どこかで描かなければならない、と思っていたときに、今森さんの連載に出会ったのです。そのときに、「これこそ描かなければならないテーマだ」と直感しました。その後、今森さんと一緒に、「人と自然が共に暮らす世界を描くことは出来ないか」と企画をスタートとさせたのです。
当時は、「里山」という言葉も定着しておらず、企画を通すのが難しく、企画を出しても落とされてしまいました。しかし、あきらめきれず、ミニ番組を多く作り、映像で勝負することにしました。『ふるさと自然発見』という10分の番組で、里山の世界を描き、細々とスターとしたのです。なので、今日、第3シリーズまでいくとは思いませんでした。とにかく、身近な自然を紹介したいという思いで始めたのです。
里山という新しい価値観を、どう描いたら間違いなく里山の世界、今森さんや私たちが考える世界、を伝えることが出来るのかを考えたときに、いくつかのキーワードがあります。それは、やはり「感性に訴えるものでなければならないのでは」となりました。里山とは、自然もさることながら、そこには文化・伝統もあるし、子供が遊び、自然に感謝する人々がいる、日本独特の風土があります。自然だけでも十分でないし、人間だけでも十分でない。両方がミックスした世界を、感性に訴えていくことが重要ではないか。その意味で、タイトルに「映像詩」とつけたのは、映像と音楽、自然音、それらが醸し出す雰囲気を多くの人に感じてもらいたいと思ったからです。なので、音楽にも徹底的にこだわっているのです。
「里山」で描くときの重要なことは、「命と命が繋がっているんだ」ということ。まさしく、生物多様性そのものです。一つの世界として、命と命が繋がって一つの環境や生態が出来ている。そして人間もその一つである、ということを表現したかったのです。
人間が暮らしている世界には、とても小さいけれど、重要な役割を持っている生き物がいます。そして、人間の暮らしている傍らで生きており、様々なドラマを繰り広げています。そのようなことを、感情をこめて、表現できる手法が必要だと思いました。これは、今森さんも言っていることなのですが、小さな生き物の目線で描いていくことが、重要なキーワードとして必要だと思いました。そのために、NHKが開発した最先端の「虫の目レンズ」で撮影しています。
今、CPO10が世界で注目されています。日本政府は、「里山イニシアティブ」を世界に発信しています。これは、日本のメッセージであり、日本独自の価値を世界に発信することでもあります。「里山」には英語版もあり、BBCの自然番組で有名なプレゼンターでもあるアッテンボロー氏が、ナレーションを引き受けてくれました。
里山についてはまだまだたくさんの話がありますが、時間になりましたので、これで終わりにいたします。

村田真一氏×阿部治氏の対談内容
阿部氏:「里山Ⅱ」は2004年に放送されたものです。川端があるところは、滋賀県高島市の針江という地区です。ここは、映像が流れてから観光客が多くなり、エコツーリズムにまで発展しました。映像が流れる前から、有機農業を行っていた人がいたのですが、放映後住民の意識が高まり、この方の思いとも繋がっていきました。このように、自然番組、メディアが地域の人の意識を高めた例は、まだあまりないのではないでしょうか。
村田氏:NHKでも放映したコウノトリやトキも地元の人の協力を仰ぎながら活動しています。今回、地元の人でもある今森さんとの出会い、そして、今森さんがマスコミを繋げ、地域活性に繋げていった。とてもうまくいった一つの例なのではないでしょうか。
阿部氏これは、環境コミュニケーションの典型的な事例だと思われます。
村田氏:うまくいく要素には、地域にスーパーバイザーがいるかいないかが大きいのではないでしょうか。今森さんやコウノトリの例のように、地方と全国を結ぶ人、そしてマスコミも知っている存在が大きいと思います。
村田氏:琵琶湖から始まった里山ですが、NHKでは『日本里山百選』として引き続き映像化しています。
阿部氏:文化庁が文化的景観の保存として、保存地域の選定を行っていますが、針江地区も今年選定されました。人と自然の関わりの中で、生業が行われ、景観や文化を維持されている地域が選定されています。賢明な知恵、多様な地域の文化や歴史を学び伝えていくことが、地域の多様性を保全することに繋がっていく。このことは、ESDに通じるものがあります。以前、何人かのアメリカ人の生態学者に「里山」という概念があるかどうか聞いたところ、ないと言われました。そのため、呼び名が難しく、「SATOYAMA」と言う言葉を使うそうです。アメリカは豊かな自然を開発するか、そのまま残すかの二つの道を選んだからです。
村田氏:イギリスなどには、似たような環境があるようです。
阿部氏:アジアでもヨーロッパでもネイティブの似たような環境があるはずです。この日本から発信された里山ですが、里山を維持していくことは、私たちの生活や生業、自然を保護することであり、今後も注目していきたいと思います。

 

 

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