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イベントレポート

「立教大学ESD研究センター成果報告会およびESD国際シンポジウム」報告

日時 : 2011年9月22日(木)14:00~17:00、23日10:00~17:30
場所 : 立教大学 池袋キャンパス 14号館4階D302・D402、太刀川記念館3階多目的ホール
題目: アジア太平洋地域におけるESDの実践および今後の展開
    

去る2011年9月22日(木)、23日(金)「立教大学ESD研究センター成果報告会およびESD国際シンポジウム」(於:立教大学池袋キャンパス)を開催しました。1日目は、教材開発の成果を共有するべくCSRチーム、アジアチームのワークショップを開催。2日目は、ESD研究センターの5年間の活動報告のほか、アジア太平洋地域の各ESD推進拠点から招聘した方々とともに、当地域におけるESDの成果と課題を共有し、今後の方向性について討議しました。以下、概要をご報告いたします。

■ 第1日目 (9月22日)
ワークショップ ESD×CSRプログラム体験~サステイナビリティ教育企業導入3時間編~(文責:後藤隆基(RA)・照沼麻衣子(PD)) 

【概 要】
立教大学ESD研究センターは、2007年の設立以来、アジア太平洋地域を中心に、人文・社会科学の視点から統合的なESD研究を実施してきました。9月22日、23日には「立教大学ESD研究センター成果報告会および国際シンポジウム」を開催し、その第1日目に、当センターCSRチーム研究員が開発した人材育成プログラムを、ワークショップ形式で実施しました。
当日は、企業人ばかりでなく、学校・教育関係者、学生など、多様な分野からご参加いただき、当センターで開発してきた「サステナビリティ教育プログラム体験」のお披露目と、そのさらなる質的向上のためのフィードバックを受けることができました。
教室の前方に、机と椅子を6個ずつ置いた島を3つ。後方に、椅子をサークル状に設置し、各講師がレクチャーとワークショップを行ないました。

【「CSR」チーム活動報告】(川嶋氏)
5年間のCSRチームの活動は、大まかに次の通り。
1.国内外での先進事例調査
2.企業におけるESD×CSRセミナーの開催
3.「次世代CSRにおけるサステナビリティ教育指針」の策定
3.教育指針に基づいた人材育成プログラムの開発
4.『次世代CSRとESD―企業のためのサステナビリティ教育―』(ぎょうせい、2011年)の刊行

【チェックイン】(中野氏)
教室後方に、椅子をサークル状に設置し、講師も含めた参加者全員の「自己紹介」からワークショップはスタートしました。多様なバックグラウンドをもつ人々が、問題意識を共有するための「学びの場」をつくることが目的です。
各自マーカーを手にして、紙の表側に「どこの誰」、裏側に「今日ここへ来た縁」「今日のワークショップへの期待」「参加のきっかけ」などを記入したあと、一人につき30秒程度で自己紹介して、次の順番(隣の椅子)の人がタイムアップを知らせる、という形式です。
テキスト ボックス: まずは、中野民夫氏が「環境教育の縁があり、企業人という立場でESD研究センターに携わっている」と、自ら自己紹介のモデルを務め、以下、その他の講師を含めた参加者の自己紹介が行なわれました。たとえば、小学校の「食育」を中心としたESDの普及、大学を企業として見たときのCSRのありかた、書物で得た知識をリアルに体験したい……等々。
それぞれの背景が見えたところで、次に「現在の社会が、このままでは持続不可能だと思うときはどんなときか」という問いかけに対し、1~2分で端的なキーワードを書きだしていきます。環境問題、社会的責任、人材育成など「いま自分が気になっていること」を他者とシェアするための問題意識を挙げ、これも自己紹介と同じく30秒でコメントしていただきました。

・メーカーがものを売り続けていいのか。
・自分の生活から出るゴミの行方に対する意識。
・消費と豊かさ、欲望の肥大化。
・物的量的欲望の拡大。利潤中心の個人の意思決定。
・新しい物を買い、古い物を捨てている自分。
・食物の需要と供給。
・埼玉と東京。街のあり方として、東京に近い、という利便性が問われる。
・「もっともっと」と所有したがる私たちの欲望
・地球の環境が「また元に戻る」と思っている人が多い。
テキスト ボックス:・都市化の進行。
・3月11日以後の考え方の変化。
・人間と自然環境の共存とコミュニティのありかた。
・20歳の娘と心の対話ができていない。
・核拡散、若年失業問題、合計特殊出生率・純合計出生率
・北京の大渋滞(中国、インドなどにおける車の急増)。
・希望の不在と社会の疲弊。高度経済成長期に比較した時代の暗さ。

【ワーク①:ファクトカードによるグループセッション】(吉沢氏)
参加者の中で実際に所属する方々のうち、3名の方々に現場のリアリティに関するお話をいただき、ワークショップの素材となっていただくため、その3名に別々のグループに分かれていただき、教室前方(机と椅子を6個ずつ置いた島が3つ)へ移動します。
机には、37枚で一束の紙(カード)が用意してあります。表には、地球環境などに関する問題やキーワード、裏にはその答え、解説が書いてあります。それを机の上に広げ、各自もっとも興味関心のある問題を、配布された紙の中から選びます。
テキスト ボックス:目を通して内容を理解し、1人1分程度でチームの人に問題と解説を読み伝える。そのあと、自分がそのカードを選んだ理由などを伝える、という手順です。
各チームには、講師も参加し進行のサポートをしました。カードのキーワードを元に話を進めることで、参加者それぞれが考える「ESD」という問題にまで発展していきます。ここで掲げられた問題意識をどのように共有し、どんな解決方策を考えるか。議論が盛んに行われました。日ごろ、個々の中に埋もれている問題が、対話の〈場〉を得て、意識共有を図ることができる機会になったのではないでしょうか。

【次世代サステナビリティ教育指針・ミニレクチャー】(中野氏)
休憩を挟んで、中野氏による「次世代サステナビリティ教育指針・ミニレクチャー」が行なわれました。この教育指針は、当センターCSRチームが「持続可能性とは何か」を凝縮してまとめ、企業におけるESD推進を補助するために策定したものです。国内外での調査や研究に基づいて、講演会やセミナーをひらき、様々な立場の方々からアドバイスを頂きながら、3年ほどかけて策定をしました。今回のワークショップは、その基調的な意味合いもあるため、参加者で指針を共有した上で、プログラムを実施していきます。
先ほどまでのグループを、そのまま引き継ぎながら、次のワークへ移ります。

【ワーク②:サステナブル・コンサルティング・ワーク】(中西氏)
ワークショップに参加を頂きました3名の所属する企業(企業A=総合重機メーカー、企業B=警報器関連メーカー、企業C=計算機メーカー)における「ESD」のプログラムは、現状でどんなものがあるのか、各企業の事業をモデルにして、議論に入っていきます。
ここで問題となるのは、説明として「○○メーカーです」と言われたとき、その中での「CSR」という意味がわかりづらくなってしまうことでした。そこで、自分たちの仕事を名詞的に捉えるのではなく、たとえば「□□を△△する会社」と動詞的に解釈してみる、というのが、中西氏によるワークショップの特徴です。
本来は、自分たちで考える手順が必要ですが、今回は時間の都合上、中西氏が3企業の仕事を動詞的に言い換えてみました。

テキスト ボックス:●企業A=資源(ここでは仮に「水」とする)の利活用を効率化する会社
●企業B=リスクを「見える化」する会社
●企業C=数字で意味を伝える会社

上記の点をふまえて、各企業の事業としてCSRを考えたときに、どんな商品やビジネスの可能性があるか、各テーブルで議論をします。そこから事業案が出てきたときに、それをやる「人」が大事になってきます。その人にどんな「学びの場」を与えるかということが大切なわけです。
「それぞれの会社において、自分たちの暮らしを持続可能なものにするための事業は何か」という15分間の議論を経て、生まれたアイディアを模造紙に書いていきます。
各グループでは、活発な議論が行われました。各分野の専門の企業人、CSRチームの講師、その他の分野からの意見を取り込むことで多彩な視角が生まれ、新しい商品、システムが構築される。企業側はもちろん、個々の企業外の人でも「事業」というモデルを用いることで、ふだんとは異なる考え方をし、新たな視座が開ける。企業のものと思われている「CSR」を、各参加者が自分事につなげることが可能になった瞬間でした。
そして、各グループの成果発表です。

①企業A=水資源の利活用を効率化する会社
→世界中で枯渇している水資源。それを扱うこと自体が持続可能性に意義がある。
国産という枠を外し、グローバルに、地球規模でおこなえる。
②企業B=リスクを「見える化」する会社
→放射能の検知、室内の環境ホルモンの検知、人の出す二酸化炭素を検知して防犯に生かす。
③企業C=数字で意味を伝える会社
→数字を「見える化」したらよいのではないか。環境問題には数字が頻出する。たとえば、節電の「見える化」などのデバイスとしてできるとおもしろい。企業間の連携による提供、サービスが可能となる。また未来の人口、出生率を測れるデバイスを自治体が使えたら、地域づくりの新たな可能性につながる。

 こうして、それぞれ見出した事業ビジョン(事業目標)を、次の段階として「サステナビリティ指針」に当てはめて考えてみます。指針における「3つの公正」(未来・自然・ひと)のうち、どれか1つを選び、どこに軸足を置いて事業を組み立てるかを明確にする作業です。

●企業A
社員に対して、どんな「学びの場」が必要か。
→意識の高い人は、個人で本を読んだりしているが、会社としては難しい。世代間の共生に関わる事業とアプローチが必要。

●企業B
途上国に対するガスの普及、安全を守ること。センサー技術を利用した、放射能、化学物質、室内管理。
→見えないリスクを「見える化」すると「未来」に対するリスクなどを知る必要。
→社内教育の必要。個人的な問題意識はあっても。自分たちの事業をより理解し、それをどのように社会的に生かせるかという議論を行なう場がない。

●企業C
調査結果の数値をビジュアル化し、専門家でなくてもわかる視覚的デバイスをつくる。復興対策になり、自分の生活の周辺においても持続可能性を意識できる。
→学びの場を「未来」「自然」という部分だけにすると、離れてしまう。同世代という意味では「ひと」になるのか。ただ、震災復興となると「未来」も必要。個人レベルにとどまらず、会社としてそれを共有する必要がある。

 以上をふまえて、中西氏は「こうした指針があることで議論が先に進む。自分たちの事業の軸がどこにあるのかというポイントが見えてくる」と言う。その意識を共有ためのプログラムを用いることが、CSRの第一歩であり、参考のための軸足程度に考えつつ、それをベースに議論することで成果が上がる過程が検証されました。各企業の人から「未来のことはわからない」という声も聞かれますが、個々が抱える問題意識を、ざっくばらんに話せる機会があれば、議論は深まる。当センターで策定したサステナビリティ指針によって、それが推進されることが望まれます。

【学びのスタイル】(中野氏)
“コンセプチュアルな部分、概念的な部分は理解できるが、実際的な行動にうつせない。”、“アプローチをどのようにとればよいのか、実現に向かわせる手法がつかめない”という声をよく耳にするが、それは、社外の人と自分の会社について語る機会が少ない故ではないだろうか、と中野氏は分析。違いを生かした人が、ステークホルダーとして対話を行なう、その〈場〉があることによって、議論が促される。
この指針を伝えるために、講義なら30分で終わるが、体験することで、より理解を深めることができる。そういう学びの場を提供することが、私たちの手法。
対話の場づくり、知恵を出し合うことの必要性。参加型の学習によって、どのようなことが可能になるか。今日の成果として、この指針が今後に生かされ、そこから新たなフィードバックがあることを望む。

【体験型学習について】(川嶋氏)
体験を通して学ぶことの重要性は言うまでもない、と誰もが言うが、実際に体験を通して学ぶ場は少ない。ただ講義形式で話をするだけなら、効率はいいかもしれない。しかし、それが持続し、蓄積されることはなかなか期待できない。学びの場に、どちらが効率的かを今一度考えなおす必要があるのではないか。その問題は、行為目標と成果目標のどちらが大事であるかという問題につながってくる。―「伝える」と「伝わる」の違いを十分に意識しなければならない。
「わかる」「できる」「やる」という段階がある。環境教育を長年やってきて、多くの人が「わかる、でもやらない」のが現状。「わかる」よりも「できる」、「できる」よりも「やる」。実際に「やる」ということ。そのためのきっかけとして、リアルな話し合いの場ができればよいと思っている。

【チェックアウト=今日の感想、気づき、発見】
最後に、最初のチェックインと同様に、サークル状に設置した椅子に集まっていただき、これまでの成果を全員で確認しました。
・「わかる、できる、やる」―この「やる」が大事。ワークショップでの学びを具体的に実行する必要。
・3つの公正、3つのアプローチが重なることで、短時間でも十二分な対話ができた。
・中西氏のワークで、教育には「世代内の共有」が必要と気づかされた。
・「□□を△△する会社」と言い換えると「CSRとは何か」が見えやすくなる。
・知らないことを知るというところから始める。それとともに、数字を「見える化」することが、従来隠されてきたことが見えてしまう。それによって困る会社も出てくる?
・ワークショップは研修というイメージがあるかもしれないが、実際の仕事の中でやることが必要。
・本の知識が体験として腑に落ちた。企業の人だけを対象にしたものがあってもよいのでは。
・自分の会社について他者と対話ができるとは思わなかった。グローバルな問題を社内で話す機会がなく、ワークショップも研修で終わってしまう。今回の経験を生かしたい。
・若手で、会社の未来についてのワークショップを行なっている。今回のやり方を活かしたい。

【まとめ】
ワークショップの最後は、講師の吉澤氏から「今日まで、何度かプログラムをつくってきました。ここにどんな人が来て、どんな関心をもってきているのかわからない。どういう成果を出すかということが求められてきましたが、成果を手放すことで成果を得ることもできるとわかりました。ESDを知らないという人がいてくれて、それが議論の活発化につながり、良かったと思う。2014年の〈国連ESDの10年〉最終年に向けて、今回のプログラムを生かした活動を持続できたらいいと思います」との言葉で締めくくられました。
中野氏の、サステナビリティ指針に関するレクチャー。吉澤氏による、カードを用いたワーク。中西氏の提案した、自分の会社を「○○メーカーです」と名詞的に説明するのではなく、動詞的に「□□を△△する会社」と解釈することによって、新たな視野が開けるということ。また川嶋氏の「わかる、できる、やる」という段階についての解説。
企業人はもちろん、他分野からの参加者も、それぞれの共同体に所属しながら、個々の問題意識を抱えながら、それを周囲と共有することが難しいと感じていたように見受けられました。ですが、今回のワークショップによって、他者との対話の場づくり、それによって見える新たな視座が、明確に感じとれたのではないでしょうか。とくに、中西氏のワークショップは、今回のサステナビリティ指針の紹介とプログラム実践において、非常に有効な事例となったように思います。

2.グローバリゼーションと参加型開発
(文責:田中 治彦(アジアチーム主幹)、関根 全宏(RA))
【プログラム】
*****
グローバリゼーションと参加型開発(田中治彦氏)約30分
ワークショップ・グローバリゼーションと参加型開発(プラヤット・チャトゥポンピタックン氏)約90分
参加型開発とオルタナティブな社会作り(チャチャワン・トンディルート氏)約60分
*****

1) グローバリゼーションと参加型開発(田中治彦氏)
2007年から2011年に渡って行われてきたアジア・チームのプロジェクト「タイにおける指導者養成とアクション・リサーチ」について、その経緯と成果を報告した。このプロジェクトは、北タイにおける若手NGOスタッフと村落リーダーの指導者養成に関する実践的な研究である。タイにおいてはFTA(自由貿易協定)の影響で近隣諸国から安い農作物が入り、農村経済を直撃している。グローバリゼーションに伴う複雑な問題をタイの農村の人々に分かりやすく説明するのは至難の業であった。アジア・チームでは、グローバルな課題をよりわかりやすく理解するために、日本の開発教育の教材や実践が役に立つと考えた。ISDEP(持続可能開発促進研究所)は地域課題の取り組みには十分な経験と実績があったが、地球的な課題への取り組みについては苦慮していた。チェンマイで3年にわたって行われたISDEPセミナーでは、日本の開発教育が得意としている地球的課題の理解のための教材・ワークショップを提供することでグローバリゼーションの理解を促進することができた。日本の開発教育では、逆に地域課題への取り組みが課題であったので、両者にとって相互に意義のあるセミナーであった。セミナーの成果は『グローバリゼーションと参加型学習』というハンドブックにまとめられた。アジア学院ではこのハンドブックを利用して、アジア・太平洋・アフリカ約30か国の指導者を対象にワークショップが2年にわたって実施された。
アジア・チームの他のプロジェクトとしては、「ファシリテーター養成の研究」が行われた。地域に向き合うファシリテーションとはどういうものなのかという課題のもと、研究会を開いてきた。また、指導者用のテキストの制作を進めた。キャリア教育とESDを統合した『若者のためのESD』、アイヌなど先住民問題を理解するための『先住民族とESD』などの教材開発を行った。

テキスト ボックス:テキスト ボックス:

2) ワークショップ・グローバリゼーションと参加型開発(プラヤット・チャトゥポンピタックン氏)
ISDEPが関わる地域開発の原則は、1.自然を中心に考える、2.コミュニティの強化を図る、3.コミュニティ全員が参加する、4.多様な文化を尊重する、5.「ローカルな知」を重視する、の5点である。ISDEPには望ましい開発を試みるためのさまざまな知識はあったが、コミュニティの村人にまでそれを浸透させることが困難であったという問題があった。外国の組織と一緒に活動するという機会は今までなかったが、こうして共同のプロジェクトを行うことで、北タイもグローバル化する世界の中にあるのだということを改めて自覚した。グローバリゼーションを理解するためのノウハウ、視野と観点、地域がグローバル化にどう対応していくべきかという3つの事柄について理解を深めた。
グローバリゼーションの学習において必要なのは、1.参加型の学習を提供する、2.参加者同士の意見交換と生活環境の分析、3.まとめと補足的な情報を提供し共有する、という3つプロセスである。今まで北タイではこうした学習活動が行われてきたが、今後はタイ全国に広めていくつもりである。ESDRCのアジア・チームと連携しながら、新たなアプローチも積極的に取り入れていく予定である。

本報告に続いて、「一つの村が外部からどのような影響を受けているのか」という問題を考える参加型ワークショップ「羊の村」の実践が紹介された。本ワークショップの教材は、北タイの山岳民族とのやりとりから生まれた本邦初公開の教材で、寓話を通してグローバリゼーションを理解することを目的としている。日本の場合は状況が違うので、教材の有効性について懸念があったが、実際に会場で行ってみて日本においても様々な展開が可能であることがわかった。

3) 参加型開発とオルタナティブな社会作り(チャチャワン・トンディルート氏)テキスト ボックス:
ランナー文化学校長兼北タイNGOネットワーク委員会コンサルタントであるチャチャワン・トンディルート氏より、タイNGOとオルタナティブな社会に関する講義があった。タイのNGOは、1970年代から、チャリティー、地域開発、地域オーガナイズ、地域文化の重視という活動理念の流れがある。そして、現在は、互いに尊敬し、知識を共有することを通じて、住民主体の参加型開発という「持続可能な開発」の考え方が主流になっている。
・ 社会開発において、NGOは、以下のような役割を持つ。
①オルタナティブな開発を構築すること。そのためには、地域による資源管理、持続可能  な農業、包括的な健康管理、ローカルの知、オルタナティブな教育、地域経済、地域福祉、地域の権利・地域民主主義、子どもと女性権利などが重要である。
②民主主義社会の推進すること。
③グローバリゼーションに対抗すること。
④オルタナティブな社会構築のため、ネットワークをつなげること。

オルタナティブな社会においては、次の3つの価値観がメインとなる。
①公正、平等、平和 ②多様な進行を基盤にした精神的な価値 ③自由、自立。

・オルタナティブな社会を実現するためには、8つの側面のマネジメントをしなければならない。 ①持続可能な自然資源管理、②足るを知る経済、③社会福祉、④自由になるための教育、⑤ホリスティックなヘルスケアー、⑥宗教・文化、⑦メディア、⑧地域民主主義

◆海外の方からの全体を通しての感想
どのプレゼンテーションにも感銘を受け、なかでも具体例をもりこんだプレゼンテーション、ゲーム・クイズ「羊の村のワークショップ」が興味深かった。
普段は国際的レベルの組織で働いているため現場の地域的なセッションを見る機会がもてて意義深かった。

◆参加者からの感想

  • コミュニティ内で対話を生み出していく重要性を感じ、寓話を用いた参加型開発・学習がとても有効だと思った。
  • 今まで、ESDと地域開発がどう関わっていくのかという疑問があり、実際ESDの議論をきくと学校の活動が多く、コミュニティと問題意識が共有されていないと感じてきたが、本ワークショップでその関わりをはっきりと実感できた。
  • 体験型のワークショップを通して、参加型学習の意義を実感することができた。また、ESDがどのように新しい技術(ex. エネルギー開発において)を取り入れていくのかが重要なのではないかと思った。
  • グローバル経済との関連、グローバル経済に本当に対抗できるのか、という点はつめていかないといけないと感じた。CSRの視点では本ワークショップはどのように評価されるのか、と思った。
  • 開発する際に、住民に対してどのように理解を求めて接していくべきか、その重要性を再認識できた。
  • 消費者として我々がどう行動していくのかが課題である。
  • 問題・課題を考えていく中で、様々な情報を共有できて、同じアジアとしてこれからどう助けあっていくのか、前向きに考えていきたと思う。津波や地震などの自然災害の対策としての学びについても考えていきたい。

■ 第2日目(9月23日)
立教大学研究センター成果報告会およびESD国際シンポジウム 
(文責:PC小西美紀)
「立教大学ESD研究センター成果報告」(阿部治ESD研究センター長)および「特別講演:東日本大震災からの復興に向けた未来作りのESD」(及川幸彦 気仙沼市教育委員会副参事)、およびESD国際シンポジウムにおけるアジア太平洋地域からの招聘者の講演内容は、当日の発表資料をご参照ください。
http://www.rikkyo.ac.jp/research/laboratory/ESD/event/report/20110923.html 
以下、「アジア太平洋地域におけるESDの実践および今後の展開」をテーマとしたパネルディスカッションについてご報告いたします。

【パネルディスカッション】
1) パネルディスカッションは、まず、次の3点に焦点を当てて行われました。
① 各地域のESD推進における相違点
② 2014年「国連ESDの10年(DESD)」最終年会合への期待
③ DESD終了後(ポストDecade)のESD推進について
2) 続いて、以下の質問についてコメントをいただきました。
① 「国連ESDの10年」終了後、第二の「国連ESDの10年」を推進することを支持するか。
② ESD推進におけるキーワードは何か。
以下、各パネリストの発表内容です。
テキスト ボックス:
1)

  • ケイティ・ヴァンハラ (ユネスコバンコク、アソシエート・エキスパート) 

教育は、民間部門のようにすぐに効果が現れるものではなく、また、資金も限られている。2014年の最終年会合に向けて、民間部門との連携強化を期待する。CSRを超えてサステイナビリティをビジネスに組み込むことで、教育の需要も高まり、互いに補完できると考えている。また、教育と雇用のギャップを埋めることにもつながるであろう。
最終年会合では、これまでの活動のアウトプット、成果と課題を確認することを期待する。そこから教訓を学び、その後に活かしてゆくことが大切。持続可能な社会実現のためには、分野間、官民、国連内部などの連携強化が必要である。また、Rio+20でもテーマの一つになると思うが、持続可能な開発について議論するだけではなく、いかにアジェンダに載せるかが重要。ポストDecadeについては、現実的な目標の設定および実践、カリキュラム作り、法規制など様々な課題が考えられるが、民間部門を初め、市民社会や行政との連携をより深めながら活動していくことが重要である。また、共通のアジェンダを持つことが不可欠であると考える。
ESDの推進における国連機関の連携に関しては、ESD自体がユネスコ内部でも、その他の国連機関でも浸透していない現状がある。加盟国に対しても、ユネスコがESDの推進を強要することはできない。一方で、ベトナムではユネスコの協力の元、パイロットカリキュラムが始まっているという事例もある。国連機関は、各機関の縄張り意識が強いこともあり、十分に連携できていない。しかし、最近は、防災・減災の分野、ESDの指標作り、ベンチマーキングなどでユネスコとユニセフが連携するなど小規模のイニシアティブであるが、連携・協力は始まっている。また、国連機関だけでなく、各国政府のコミットメント、貢献が不可欠である。教育の重要性が認識されていないという状況も否めないので、技術的な支援も可能であることを主張しながらESDを推進する必要がある。これまでの7年間は、ユネスコは、ESDに関するアドボカシーを重点的に行ってきたといえる。

  • ラマン・レッチュマナン(東南アジア諸国連合(ASEAN)、事務局環境部門長)

ASEAN10カ国の間で、共通点を見出そうと努力している。一方で差異があることにより有益な場合もある。例えば、ASEANの中で最も経済が発展しているシンガポールは、持続可能な都市づくりにおいて高い専門性と技術を有しており、他国にも参考になる。DESDの取り組みは、国連192カ国が参加するグローバルなイニシアティブであり課題はさらに大きい。その中で、共通項を見出し、パートナーシップを構築する努力をしているように思う。持続可能な開発の重要性については言うまでもない。政策についても合意ができるし、責任の配分まではできているが、いざ実践になったときに意見が分かれてしまうのが現状である。
ESDにおいて、意識の向上、認識の向上が重要であると考える。環境分野で見てみると貿易交渉において環境問題が取り上げられる、ハイブリッドカー、省エネ照明など環境にやさしい製品が開発・普及するなど、10年、20年に前に比べて環境に対する意識は高まっている。今後さらに持続可能な開発のための教育を継続するのであれば、これまでの経験を踏まえ、活かすことが必要である。アクションプランを策定し、トップダウンで実践させる方法はうまくいかない。ASEANの環境教育のアクションプランを策定する際もそうだったが、学校の先生は、環境(新たな内容)をカリキュラムに導入することに負担とプレッシャーを感じていた。上からの指示ではなく、フォーマルセクターにおいて相互教育を支援する、ネットワーキングを支援することが必要である。また、現状と社会の変化を踏まえESDは誰を対象にするのか、そして、そもそも我々自身にその能力があるのかを自問しなければならない。ESDについて長年話をしているが、私自身やや落胆気味である。メッセージばかりを発信している気がする。人々の生活にインパクトのあることを具体的に実践する必要がある。

  • タティアナ・シャキロバ(中央アジア地域環境センター(CAREC)、ESDプログラムマネージャー)

アジア太平洋地域のESDに共通している点は、1)自国政府が国家予算からESDの予算を拠出できない場合も多く、ドナー国の支援に頼らざるを得ない点、2)環境教育からESDに発展しているケースが多く、今でも環境教育がESDの中心である点、3)若者がESDの中心ターゲットの一つである点、4)中央アジアの場合、各国の伝統や文化がESDにおける重要な要素である点。一方、それぞれの国が抱える問題や課題によってESD推進の状況は異なっている。例えば、内陸地の中央アジアは、飲料水の問題、水の管理の他、生態系の管理、山岳地帯、氷河、気候変動への対応など様々な課題を抱えている。中央アジアは、アジアとヨーロッパ双方のESDに関与しており、双方のコーディネーション向上を期待している。会議の日時のほかに、ファンディングや優先順位などについてもより良くコーディネートしてほしい。
最終年および国連の10年終了後に向けて、ビジネスセクターの参画の強化を期待する。カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは石油、天然ガスなどの天然資源に恵まれているが、開発が持続可能な方法で行われていないことが多い。政府、経済界には持続可能な開発の実現を期待する。NGOや国同士の連携も必要である。中央アジアの国ごとに発展状況が異なるが、共通の伝統や価値観を尊重することが大切だ。また、セミナーやミーティングを開催するだけではなく、実践的な成果を見て、若い世代の人々が5年後、10年後に持続可能性に配慮した決定を下せるようになることを期待する。中央アジアの国々にとってアジア太平洋地域との連携が進むことは重要である。中央アジア各国がよりESDやSDに参画することを願っている。

  • ラテゥナディーラ・ウエディッカーラ・カンカーナムゲエ (南アジア協同環境計画(SACEP)シニア・プログラムオフィサー)

南アジア諸国の中には、島国もあれば内陸の国にあり、それぞれ課題も文化も異なる。文化的側面を無視すれば、教育のプロセスは成功しないであろう。ESDの重要性は認識されているので、ローカルな文脈でいかに実践するかが重要である。
DESD最終年に向けて重要なのは、これまでの活動を振り返ることである。目的・目標が達成されたのか。されていない場合、今後の課題は何かをまとめる必要がある。環境問題は常に変化している。現在、特に課題とされていることが将来的にも深刻な課題とは限らない。教育すべきテーマも常に変化しているので、変化に対応することが大切である。また、環境教育とESDを別々に行うのではなく、ESDの要素を全ての教育に組み込む必要がある。例えば、ESDの要素が含まれていない環境教育には資金提供しないという方法もあるだろう。

  • クレサンティア・フランセス・コーヤ (南太平洋大学、教育学部講師)

ESD推進方法やアプローチは、文脈やニーズによって異なる。一つ目に、国ごとに、ESDにおいて取り組む課題の優先順位や力点が異なる。12キロの小国であるツバルは、環礁における気候変動が大きな問題となっている。一方、広い国土を有し、漁業が盛んな国は、売春、性感染症が大きな課題。農村部では、乳幼児死亡率の高さが問題となっている。本島から離島への距離や、病院など医療機関からの距離が関係している。二つ目に、国・政府レベルのアプローチが異なる。例えば、美しい海岸を有する観光地と知られるクック諸島は、持続可能な開発計画を定め、国家プロジェクトとして持続可能な開発を推進している。一方フィジーの場合、教育省がESDのイニシアティブをとっているが、その他、環境省、農業省、観光省もそれぞれ持続可能な開発のためのプログラムを推進している。共通点としては、ESDはフォーマル教育、ノンフォーマル、インフォーマル教育の横断的なアプローチをとっている点が挙げられる。また、先住民独自の知識が持続可能性の思考のベースにあるという点でも認識が共通している。もともと人々は持続可能なライフスタイルを送ってきたが、経済面の重視、ライフスタイルの変化により、自然や環境を破壊してきたという点は、共通の認識である。
2014年に向けては、モニタリングの強化、各国のコーディネーターに対する教育・訓練の向上、メディアの活用、ESDの事例の文書化などを期待する。実践を文書化することで、それを教材に活用することもできる。2014年以降も継続的にESDが推進されるために、ESD教育者間、NGO、HESDなどのネットワーク整備・強化を期待する。DESDの最初の10年が、意識向上のためのものであったとするならば、次の10年は、行動に移す時期である。

  • 阿部治 (立教大学ESD研究センター長)

5人の方の発表において、ESDよりも環境教育という言葉の方がより浸透しているという話があった。自然環境は人間が生きていくベースになるものだが、ESDにおいては、それ以外にも健康や平和、ジェンダー、人権など様々な問題が関連しているということを強調している。今回発表いただいた方々は、主に、各地域の環境機関に所属していること影響しているかもしれないが、ESDの推進拠点として、環境教育をベースにしながら、様々な問題にどのように取り組むかが大きな課題である。また、アジア太平洋地域では、子供の人口比率が高く、子供たちに対するESDが、未来への希望につながると思う。

テキスト ボックス:
2

  • 阿部治 (立教大学ESD研究センター長)

国連ESDの10年終了後は、第二の国連ESDの10年を提案することを検討している。日本においても、国連ESD10 年を通じて、ESDという概念がある程度浸透し、ESD推進のための仕組みづくりができてきた。次の10年は実践の10年だと考えている。そこで、第二の国連ESDの10年を支持できるかできないか。また、ご自身が考える、ESDのキーワードについてお話いただきたい。

  • ケイティ・ヴァンハラ 

第二のESD国連の10年を支持する。意識向上については、若者に焦点を当てる必要がある。オペレーション面では、目標を絞ることが重要である。目標が不明確だと、評価もすることができない。

  • ラマン・レッチュマナナン

現在の国連ESDの10年のような進め方のままであれば、私は、第二の「国連ESDの10年」を支持しない。最初の10年は、意識向上のためにあったということだが、文書には、実践についても明記されていたはず。ユネスコがリーダーでは成功しないと考える。ユネスコは、気候変動や生物多様性に焦点を絞っているが、その分野でユネスコは何をできるのか疑問。民間部門も気候変動に取り組んでいるが、成果が現れていない。今のような計画や交渉のままであれば、次の10年を支持できない。だからといって、国連の10年がなければ何も起こらないわけではない。とにかく勢いをつけて走り出すべきである。様々なプロセスや交渉のあり方も変えていく必要がある。例えば、発展途上国の中ではグリーン経済について交渉しているが、その中にはWTOも世界銀行も会議に参加していない。リオ+20では、新たな制度も策定されているが、国連組織の強化も必要である。ESDも十分に浸透していない。国連の10年があるから、ただやるだけでは成果が上がらない。

  • タティアナ・シャキロバ

第2の国連の10年を支持するが、現実的には実現することは困難だと考える。しかし、これまでの活動が継続的に実施されることを期待する。ESDは10年で終わるものではなく、ユネスコや他のドナーの下で、教育プロセスが継続してほしい。例えば、グリーン教育や、グリーン経済の枠組みの中で、継続が可能ではないか。国連ESDの10年終了後、キーワードとなるのは、あらゆるレベルにおける「パートナーシップ」だと考える。協力体制を強化して持続可能な、より良い世界を創造してゆくべきだと考える。

  • ラテゥナディーラ・ウエディッカーラ・カンカーナムゲエ

第二のESD国連の10年をサポートする。次期は、実践重視で推進する必要がある。目標も絞るべきだと思う。また、実践のためには予算を確保することも重要である。

  • クレサンティア・コーヤ

第二の国連の10年については、地域レベルの参画、意思決定が保障される、という条件で支持する。トップダウンの押し付けであれば、組織的な独裁主義に陥る可能性があり、それではうまくいかない。地域の人々がより多くの決定権を持てるようにしていただきたい。
ESD推進において大切なのは、「VA」という概念だと思う。ポリネシアの文化で関係性を意味する「VA」は、人と人、場所や空間、人と自然などの関係性を含意している。「VA」は関係性を維持する期待感についても表現される。「VA」を保つことが大切だと考える。

  • 阿部治 (立教大学ESD研究センター長)

アジアは、おそらく世界で最も自然や文化、民族も含めて多様な地域であると思う。アジアは、人口増加、経済発展が著しく、その中で持続可能性をベースにしなければ、未来がない。その点、ESDの果たす役割は非常に大きい。グリーン成長、CSR、パートナーシップ、人と人、自然と人との関係性など様々なキーワードを出していただいた。これらをベースにしながら第二の「国連ESDの10年」について、日本でも、いただいたご意見を共有しながら真剣に議論していきたい。

以 上

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