立教大学 ESD研究センター
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イベントレポート

公開講演会
「SDの最前線(2): 環境教育/ESD実践の現場から-奄美・勝山の事例より」

 P.C. 櫃本真美代(ESDRC) 
日時 : 2011年12月7日(水)18:30~20:30 (開場18:00)
場所 : 立教大学 池袋キャンパス 太刀川記念館3F 多目的ホール
講師 :

前園泰徳氏(勝山市環境保全推進コーディネーター・東邦大学理学部非常勤講師・NPO法人恐竜のまち勝山応援隊所属)

主催 :

立教大学ESD研究センター

    

 この3月まで、奄美大島で科学者の目線で環境教育を行ってきた前園氏が、4月から環境自治体として有名な勝山に赴任された。今回は、これまでの実践報告から、地域でESDをどう浸透させるか、どう定着させるかなどについて、ノウハウを語ってもらった。





なぜ今環境教育・ESDなのか?

 現在の社会が持続不可能な社会であることはすでに明確。持続可能な社会を作るための教育として位置づけられているのがESDだが、まだ一般には知られていない。理想的な生き方を探る教育や幸せ教育と置き換えないと浸透は難しいのではないか。そして、ESDの定着には、大人の常識の転換をすることが必要だが、これが大変難しい。一方で子どもたちへの教育では、新しい常識を教えないといけない。
  昨今、自然、経済、社会共に大きく変化することが予想される。そこを生き抜く力を育む仕組みが、ESDに求められている。前例がないところでやっていくことになるし、柔軟に対処していかなければならない。
これからを生きるために必要なものは何か。実践から以下のような力が必要であると思うようになった。
  1.強い好奇心(欲)
  2.豊富な知識(脱専門化)
  3.客観的な視点
  4.論理的な思考技術と想像力
  5.相手に伝える技術
  6.安定した精神状態
  これらは現在一般的に行われている授業だけでは得られない力。そのためにも、質の高い、持続的な環境教育やESDが求められている。
  ESDとは、持続不可能な社会へひた走る人類を、教育の力でなんとか押しとどめようとする、人類史上最も壮大な計画でもある。しかし、現実には、人類全員に必要な教育にもかかわらず、環境教育やESDの本来の目的はほとんど伝えられず、浸透もしていない、など問題がある。実現の道は厳しい。
  なぜ教育が必要なのか。教育とは哺乳類としてのヒトが社会で生きられる人間になるために重要なものであり、人たらしめるものである。しかし、教育現場ではこんなことは教えられていない。教員の大半は、大学卒業と同時に就職することから、社会経験がなく、教育の目指すものの全体のつながりのイメージができない。また、記憶は要求しても、どう考えるのか、思考技術を教えず、さらに、未来を想定した内容にはなっていない。
  考えるとはどんなことか、思うとは何か、身近な言葉は辞書では調べないもの。考えるとは、知識と経験をもとに筋道をたてて教えていくことなのだが、日本の教育は筋道の立て方をほとんど教えていない。社会では、決まった答えがある問いに答える能力ではなく、絶対的な正解のない問いに対する自分の答えを求められるからであり、これがないと持続可能な社会も創造できないからである。

奄美大島での実践や活動の課題
 一般的な教科書では、奄美のことはほとんど学べない。そこで、地域独自の教材開発を行った。教材作成は先生のやる気次第だが、ノウハウやシステムがない。それでは環境教育は進まない。システマティックに地域独自教材を作る仕組みと人材が必要。教材はまず興味を持たせることを重視し、楽しいことを最優先した。同時に、環境教育やESDで思考力とプレゼン力を育成できるような総合的な学習に見合った内容とした。
  これまでの学校教育において、重要でありながら欠落していたのが「考察すること」である。そこで、子どもたちに本格的な手法のもとで研究を行わせて、徹底的に考える技術を教えた。そして、最後にはパワーポイントを用いてプレゼンを地域の大人に対して行った。子どもたちのグループ活動には適材適所を徹底し、役割分担、責任を明確にした。また、様々な専門家への徹底したインタビュー手法などを学ばせることで、コミュニケーション力がついた。
  環境教育やESDの学力への効果が出てくると、教員や保護者の評価も変わってきた。教員と保護者の理解と協力促進があってこそ環境教育が定着すると確信している。
  奄美の課題としては、身近なものへの関心の低さ、教育への関心の低さ、土建業への依存、閉鎖的などがあり、環境教育やESDの浸透や定着にはもっと人、資金、協力体制が必要であった。また、奄美そのものが特殊なので、一般化し全国のモデルにはなりにくかった。

勝山での挑戦
 福井県勝山市は、環境教育の関心は高いが、何をやっていいか分からないという状況だった。しかし、受入と協力体制構築には大変前向きであった。
  勝山は、アメリカの経済誌FORBESが世界で9番目にクリーン都市にあげたところである。恐竜博物館があり、恐竜化石の発掘量が日本一である。勝山の魅力は、水、空気、食べ物の清浄さ、手付かずの自然と里山、生物の多さや伝統的な景観、歴史の重さ、そして、コンパクトシティであること。また、日本トップクラスの貯蓄率で、節約し、しっかり作って大事に使う民族性があること。3世帯で居住し助け合うなど、幸福度も日本一である。そして何よりも教育を重視していることである。
  勝山に赴任してから、まず、行政執行部の理解と協力体制を構築した。次に、教育関係者の情報共有システムを構築し、教員が常に情報を共有でき、進展具合も見ることができるようにした。これによって、若手の教員にやる気が出てきた。また、産官学民の連携を強化した。
  様々なメディアへの活動のアピールも手がけた。これにより勝山が福井の中で注目されてきた。この動きにともなって、住民の意識も変化してきた。特殊なことではなく、あえて当たり前の地域の情報を客観的に見て価値を見出し、様々な手法で発信し、当たり前のすごさを実感してもらうことを実践している。新聞などを使って、子どもから地域社会の発展を提言し、大人の社会を変えていく活動も定着してきた。活動の点がすでに線になっていることを感じる。これからはこの線を、これから面にしていく。

地域の人を巻き込むには
 勝山の問題点は、身近なものへの関心の低さであり、ないもの探しの風潮があること。また、良いところがあってもアピール下手で、程ほどで十分に感じてしまう民族性があると思われるため、良い情報が発信されていない。情報化社会の中で非常に損をしている。
  そこで、この課題を克服するために、まず、行政、学校のキーマンを確保することが重要である。次に、市民にとって身近なものの意外性で驚かせ、興味を引くようにした。そして、たっぷりほめてから建設的な意見を言う。魅力を言って持ち上げて、ここだけは直したほうがいいと伝えることで、否定的にとらえられず、協力体制が構築できてきた。
  関心のある人だけを引き込んでも地域は動かない。そして、興味がなければ絶対入ってこない。面白い、楽しい、身近なものに関心を持たせることが重要である。
  来年、勝山で環境自治体会議20回大会を開催する。勝山から全国のモデルとなれるような情報を発信する良い機会ととらえている。この機会を使うことで、さらに市民を巻き込む予定である。

皆さんへのお願い
  人だけが幸せになる生き方の追及が20世紀だった。しかし、それだけでは環境問題や心の空洞化が顕著になり、幸せに生きられなくなった。自然も人もみんなが幸せになる暮らすために、21世紀は、人も自然の一部分であること、自然なくしては人の命はないということ、自然に逆らうのは不健全であることを知る必要がある。自然が健全でなければ人も幸せにならない。必要なのは、まず、新たな常識と知識と価値観、そしてほどほどの限度を学ぶこと。さらに、どんな事態でも適正な解を導いていけるような思考技術を常に学ぶこと。これは、子どもの頃から自然に学ぶことなのではないか。自然も人も幸せな生き方の模索は、自分や子孫が健康に生きられることであり、未来の世代に誇れることであるはずだ。是非、2世代後くらいの世代にも誇れるような生き方をしていただきたい。
  一生が一度きりなら世代を超えて評価される仕事をしてほしい。それが、ヒトとして、人間として、最も幸せなことではないだろうか。

 この後、阿部治センター長を交え、参加者の質疑応答に答えた。

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