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研究紹介 (素粒子グループ)

素粒子グループでは、場の量子論や超弦理論などに基づいて、素粒子物理学の理論的な研究が行われています。

私たちのグループは、時空・物質・相互作用を統一的に記述する量子重力理論の構築に向けた超弦理論・場の量子論の解析、ゲージ/重力対応の検証と応用、量子色力学に基づくクォーク・グルーオン系における摂動・非摂動効果の解明など、素粒子物理学分野の多岐にわたる研究を推進し、多くの成果が得ています。また、活発に開催されるセミナーや研究集会などを通じた他大学の研究者との共同研究や研究交流が盛んに行われています。数理物理学や数学との関連が重要であるという観点から、立教大学 数理物理学研究センターとも密接な連携を図り、学術交流や研究活動の活性化を推進しています。

以下では、研究内容の紹介が見られます。

ブラックホール・AdS/CFT対応・量子情報 (宇賀神 知紀)
超弦理論・超対称ゲージ理論・数理物理学 (初田 泰之)
ゲージ・重力双対性と関連する素粒子・重力理論  (石井 貴昭)
ゲージ・重力双対性と量子重力理論  (鈴木 健太)
研究紹介 (宇宙グループ)

ゲージ・重力双対性と量子重力理論 (鈴木 健太)

一般相対性理論によって予言されていたブラックホールは、近年世界中の望遠鏡で直接の撮影 によって、その存在が確かめられた天体です。ブラックホールの事象の地平面内では、古典的 には光ですら脱出することができない空間の極限領域となっていますが、一方で、量子論を適 用するとホーキング放射により、ブラックホールは蒸発することが知られています。しかし、 ホーキング放射は完全にランダムな熱輻射であるために、一度ブラックホールに飲み込まれた 情報は完全に喪失してしまうのではないか、というブラックホール情報喪失問題が存在しま す。この問題は、量子重力理論の根本に関わる、現代物理学の最大の難問と考えられていま す。近年この問題の解決に向けた重要な発展が、「ブラックホールの事象の地平面の内側と外 側の自由度は独立ではない」という考えのもとで、AdS/CFT 対応を用いて展開されました。 AdS/CFT 対応は、ゲージ・重力双対性(または、ホログラフィー原理)の1例であり、曲率 が負である反ド・ジッター空間での量子重力理論を、時空の次元が1つ少ない重力を含まない 場の理論と対応させる関係性であります。

私の現在の主な研究対象は、低次元系での AdS/CFT 対応及び、ゲージ・重力双対性です。代 表例としては、Sachdev-Ye-Kitaev (SYK) モデル、Jackiw-Teitelboim (JT) 重力理論、リウヴィ ル場理論、ランダム行列理論などです。これら低次元モデルは、上記のブラックホール情報喪 失問題の進展にも大きく寄与しました。低次元系モデルを考える一つの利点は、対称性を増や し、解析能力を高めることができる点です。一方で、上で挙げたモデル達はこの高い解析性を 保ちながらも、ブラックホールの量子力学的側面と深く関わっている「最大量子カオス」の性 質も持ち合わせている、特別な理論達です。例えば SYK モデルは、多数のフェルミ粒子を記述 する量子多体形模型ですが、ある極限では2次元の AdS 空間上でのブラックホールと AdS/CFT 対応の意味で、等価であることが知られています。私の研究目標は、これら解析性 の高い低次元モデルを最大限活用して、未だに謎の多い量子重力理論の構造の解明に貢献して いくことです。また、今後は反ド・ジッター空間だけでなく、曲率が正であるド・ジッター空 間や、ミンコフスキー空間での量子重力理論へも応用していくことを考えています。