to our Future Colleagues

分子配向機能の創出 -高分子を並べてみよう- 

 “ソフトマテリアル”は、高分子、液晶物質(サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶)、ゲル、コロイドなど、柔らかい物質の総称です。生体は、いわば水を含む液晶分子の集合体がダイナミックに動くことで、情報伝達や動力発現を行っています。また、液晶表示デバイスは、液晶分子が電界(外部刺激)に応答し、協同的な分子配向変化によって光機能を生み出しています。
 当グループでは、このような高分子や液晶物質をはじめとするソフトマテリアルに、分子配向技術を駆使することで、新たな機能をデザインして実現していくことを目指しています(Soft-Desigend Materials)。液晶性を有する有機分子や高分子を合成し(synthesis)、集め(assemble)・並べ(align or orient)、組織化(organize)し、機能(function)をデザインする研究を進め、学生の一人一人が、合成→組織化→構造解析→機能評価、分光および散乱、顕微鏡観察まで、材料研究の「ひととおり」を一貫して経験しながら研究を進めます。分子集合体が、“並び”・“動く”ことによって発現する機能を、おもに“光”によって動くフォトクロミック分子を駆動力として設計します。ソフトマテリアルを分子(ナノスコピック)レベルからより大きな(メゾスコピック)レベルへの組織化・階層化やハイブリッド化を通じて機能を増幅、新たな機能を創発します。
 当グループで一緒に研究しませんか?
 

LinkIcon "Random planar orientation in liquid-crystalline block copolymers with azobenzene side chains by surface segregation", Langmuir, 35, 5673-5683 (2019).
LinkIcon "Surface and interface designs in side-chain liquid crystalline polymer systems for photoalignment", Polymer Journal, 50, 1107–1119 (2018).
LinkIcon "ミクロ相分離構造を光で並べる、動かす", 高分子, 67(6), 324 (2018)
LinkIcon "斜入射X線散乱測定による薄膜の配向構造評価", 液晶, 22(4), 246-255 (2018).

ブロック共重合体のミクロ相分離構造を光で並べる、動かす

 ナノオーダーの規則構造を分子レベルから造り込み,自己集合と自己組織化を融合して配列・配向する研究が活発に行われています。たがいに混ざり合わない二つ以上の高分子鎖を繋げたブロック共重合体は、高分子鎖レベル(数十ナノメートル)の規則的な相分離構造(ミクロ相分離構造)を形成します。このミクロ相分離構造は、ブロック共重合体の鎖長と体積分率により界面活性剤に似たラメラ、シリンダー、スフィア構造をとることが知られています。近年、高額な設備が必要なナノリソグラフィー技術に替わる微細加工技術として、このミクロ相分離構造を配列・配向する技術が盛り上がりを見せています。我々の研究グループでは、偏光照射によりクロ相分離構造を配列・配向する技術の開発に取り組み、光応答性液晶ブロック共重合体によるミクロ相分離構造の光配向技術を確立しています。
 フォトクロミック分子であるアゾベンゼンは、直線偏光の電場面からから逃げるように垂直方向に分子配向変化を起こします(Weigert効果)。この分子配向変化と液晶性の自発的な高い配向秩序とを組み合わせると、高効率に光配向変化するフォトクロミック液晶システムが構築できます。液晶性アゾベンゼン高分子鎖を持つブロック共重合体を分子設計することで、偏光照射によるミクロ相分離シリンダー構造の三次元的な光配向制御を世界に先駆けて達成しました( Adv. Mater, 18, 883 (2006), Chem. Mater., 19, 1540 (2007))。これらの成果は、従来法のフォトリソグラフィーによる方法とは異なり、分子の自発的な自己集合構造と自己組織化によりミクロ相分離構造の三次元的な配向制御を行うもので、新たな微細加工技術として期待されます。また、最近では,光応答性液晶の液晶温度にて直線偏光の向きを変えるだけでミクロ相分離構造がアクティブに動く分子システムにも展開し、従来の静的なナノ構造から“アクティブ”に動くナノ構造へ、リソグラフィーの概念にとどまらない新たなデバイス材料へ発展するものと期待しています。
Angew. Chem. Int. ed, 51, 5884 (2012), Macromolecules, 47, 7178-7186 (2014))。
LinkIcon "ミクロ相分離構造を光で並べる、動かす", 高分子, 67(6), 324 (2018)
LinkIcon "ミクロ相分離構造の光配向制御", 液晶, 15(4), 288-297 (2011).
 

導電性高分子によるニューロモルフィック分子ネットワーク

 近年、人工知能(AI)技術の発展に伴い、Chat GPTに代表される生成AIや気象予測など、さまざまなサービスが急速に発展しています。一方、現在のAI技術はソフトウェアベースの演算処理に依存しており、莫大な計算コストや消費エネルギーの増加が深刻な課題となっています。このような背景の中、脳の神経回路で行われる情報処理システムを模倣し、低消費電力かつ高速な学習・演算が可能になると期待されるリザバーコンピューティングが、近年注目を集めています。
 特に、リザバー部位を物理的ハードウェアで実装し、材料そのものに演算を行わせるマテリアルリザバーは、素子構造が比較的単純であることや、低消費エネルギーでの高速な学習・演算が期待されることから特に近年高い関心を集めています。これまでに、金属ナノ粒子や有機半導体材料など様々な材料系においてマテリアルリザバー素子が報告されており、脳内の神経ネットワーク構造を模倣したネットワーク状の情報伝達経路や非線形の電気特性、短期記憶特性、高次元性といった特性がマテリアルリザバー素子において重要であることが示唆されてきました。
 当研究室では、導電性高分子・液晶材料・光応答材料・高分子薄膜系、イオン伝導を積極的に使ったマテリアルリザバー材料に関する研究を進めております。様々なキャリアの伝導パスの設計と制御にょる非線形性ネットワーク構築、応答時定数の設計など、まさに、「次元制御ナノ材料」の概念が必要となります。
 

導電性高分子のアッセンブリングとニューロモルフィックデバイスへの展開

 これまでに報告されてきたマテリアルリザバー素子は、ランダムなネットワーク構造が用いられており、その構造と素子特性との相関はいまだ不明瞭であるという課題がありました。
 当研究グループは、水面を利用した独自技術である液晶混合展開法を用いることで、ごく一般的な有機半導体高分子の単分子膜形成やそのナノ構造(配向や膜厚など)を自在に制御できることを報告してきました。本研究では、この液晶混合展開法を応用することで、脳の神経ネットワーク構造を模倣した有機半導体高分子の単分子膜ネットワークの作製を試み、そのネットワーク構造と電気特性との相関を詳細に検討しました(図1)。その結果、有機半導体高分子(立体規則性ポリ(3-ヘキシルチオフェン))とドープ剤(F4TCNQ)からなる単分子膜ネットワーク構造を作製し、その二次元膜密度やドープ割合、膜厚、分子配向といったナノ構造を精密に制御できることを示しました。また、そのナノ構造と電気特性との相関を系統的に調査した結果、二次元的に広がったネットワーク構造を示す単分子膜においてのみ非線形の電気伝導特性が見られ、二次元に制限されているネットワーク型の伝導経路が非線形の電気特性を発現するための重要な因子であることを初めて明らかにしました (図2)。さらに、調製した導電性高分子の単分子膜ネットワークは、非線形性や高次性、短期記憶といったマテリアルリザバー素子に必要とされる三つの特性を示すことも明らかにしています。室温にて、加湿など必要なく、動作する特性を持ち、ニューロモルフィックマテリアルとして期待できます。
 本研究で用いた手法は、一般的に広く知られる様々な有機半導体高分子に適用することができる汎用的な手法であり、高分子材料ベースのニューロモルフィックマテリアル開発へ向けた強力な手法になることが期待されます。また、本研究は従来の構造制御がなされていないランダムなナノ構造を有するニューロモルフィックマテリアルとは異なり、用途に応じて自在に構造制御しうるニューロモルフィックマテリアルの新たな設計指針となり、本分野の研究を加速させることが期待されます。
LinkIcon Langmuir, 17, 7, 2199 (2001).
LinkIcon Langmuir, 24(18), 10498 (2008).
LinkIcon Appl. Phys. Lett. 96, 173302 (2010).
LinkIcon Adv. Electroni. Mater., 10 (11), 2400427 (2024).
 

プロトン―イオン混合伝導によるマテリアルリザバーの性能向上

-イオン伝導を積極的に活用するニューロモルフィック分子ネットワーク-
 
 これまでのニューロモルフィックデバイスは、ほぼエレクトロニクスベース材料系において行われていますが、生体内では、プロトンなどのイオン種は様々な情報担体として重要な役割を担っています。イオン種は、プロトンであっても電子に比べ質量が大きく、移動度が桁違いに小さいため、情報担体として人工的に利用されることはほとんどなく、イオン–電子混合伝導性の高分子材料であっても主要な伝導キャリアは電子が担っているのが現状です(図1a)。 そのため、イオンあるいは電子とイオン両方を協奏的に活用するデバイスの例は極めて限られていました。
 東ソー株式会社は最近、新しい混合伝導性高分子「自己ドープ型ポリチオフェン(S-PEDOT、商品名:SELFTRON®)」(図2a)を開発・製品化しており、その優れた電気伝導特性が報告されています。この高分子材料はリオトロピック液晶性を示し、電子伝導部位である高分子主鎖とプロトン伝導部位である高分子側鎖が相分離してラメラ構造を形成するといった特徴を示します(図2c)。本研究では、S-PEDOT薄膜が形成する電子伝導チャネルに対して多価アミン(図2b)を用いた化学的脱ドープ処理を行い、電子伝導度を制御することでイオン伝導度とのバランスを取り、本質的な混合伝導状態の発現を試みました。その結果、脱ドープした S-PEDOT 膜は、調温・調湿下における電流-電圧測定と交流インピーダンス測定から、相対湿度(RH)に応じて電子(ホール)伝導とプロトン伝導の電気伝導への寄与が可逆的に切り替わることが明らかとなりました。また、RH = 60~80%の条件下において、電子とプロトンの両キャリアの伝導度が同程度となり、本質的な混合伝導状態となっていることが実証されました(図1b)。加湿に伴うプロトン伝導度の増大は、従来の混合伝導性高分子材料にはない S-PEDOT 特有の秩序化したナノ構造(ラメラ構造)に由来するものと考えられます。さらに、調製したS-PEDOT薄膜はリザバー演算に求められる特性(非線形性・短期記憶特性・高次元性)を示すとともに、波形生成タスクやNARMAタスクと呼ばれるリザバー演算におけるベンチマークタスクの検討を行った結果、混合伝導状態が確認された RH = 60–80% の湿度条件下において、リザバー演算性能が最大となることが明らかとなりました(図2d)。以上より、これらの特性が、電子とプロトンが協奏的に伝導する混合伝導状態に由来するものであると結論づけました。
 本研究は、複数キャリアを活用することで分子ネットワーク型ニューロモルフィックデバイスの性能を向上させる新たなコンセプトを示すものです。将来的には、リチウムイオンなど他のイオン種を導入することで、より複雑で多様な非線形動作を実現する可能性があります。これらのイオン種の活用は、生体に近い情報伝達システムと類似しており、次世代の省エネルギーAI素子の開発につながることが期待されます。
LinkIcon Advanced Science, e20270 (2025).

空気界面からの液晶高分子の光配向制御

 液晶表示素子には、液晶物質を配向するプロセスが不可欠です。通常、固体基板に機械的なラビングや光反応を用いて配向情報を書き込んだ配向膜と呼ばれる高分子膜を設け、液晶物質を挟み込む手法がとられています。本研究グループでは、高分子薄膜中にて表面張力の低い高分子が自発的に空気界面(表面)に偏析する性質(表面偏析)を用い、光液晶配向性を持つ高分子化合物を液晶性高分子に添加、加熱するだけで、液晶光配向が可能となるプロセスを開発しました。空気界面に形成される光配向性高分子層への偏光照射により、液晶分子を自由な方向に光配向、書き換えが可能であり、塗るだけで液晶光配向デバイスとなります。
運動性が高く、低表面張力のポリ(ブチルメタクリレート)と光応答性分子であるアゾベンゼン基を持つ高分子からなるブロック共重合体(PBMA- b-PAz)を合成し、これを光応答性のない液晶性高分子に数パーセント添加した膜を用意しました。この添加膜を液晶性高分子の等方点温度の約120℃に加熱処理を行うと、PBMA- b-PAzのPBMA層が選択的に表面に偏析し、空気界面を覆います(スキン層)。液晶性高分子の単独膜では、液晶基は基板に対して垂直に配向(ホメオトロピック配向)しますが、興味深いことに、添加膜では水平配向(ランダムプレーナー配向)することが明らかとなりました。この添加膜に直線偏光を照射すると,アゾベンゼンの偏光応答性により液晶高分子の面内一軸配向を任意に制御でき,様々な描画が可能となります。また、このスキン層の形成は、インクジェット印刷を用いても行うことができます。高分子液晶膜にPBMA-b-PAzをインクジェット技術によりオーバーコートし、高分子液晶の液晶温度にて偏光を照射すると、塗布部のみ液晶の面内一軸配向を誘起でき、様々な描画が可能です(富士山を描いた図)。本技術によって、固体基板への配向処理は一切必要とせず、塗るだけで液晶光配向が可能となります。湾曲した部分や様々な基板に塗るだけで液晶配向が可能であり,「液晶配向インク」と呼べるプロセスを提案しました。
LinkIcon Nat. Commun., 5, 5124(1-8) (2014)
LinkIcon "液晶性高分子薄膜の自由界面からの配向制御", 液晶, 19(1), 7-14 (2015).
 

表面偏析と液晶性による高分子ブラシ膜の自己集合形成

 エレクトロニクス、再生医療分野の先端デバイス材料分野では、濡れ性や摩擦特性、生体適合性など表面特性はきわめて重要であり、目的に適した材料表面の物質組成やナノ構造を作り上げる技術が必要です。高分子ブラシ構造は、基板面に固定化した開始基から均一に重合成長することで、高分子鎖が表面に対して垂直方向に伸びた特異な配向構造を形成します。近年、高分子ブラシの構造に起因した力学的特性や生体適合性、分子配向特性などの特異な高分子特性が発現することが明らかになっています。
 高分子ブラシ構造は、これまで表面開始リビング重合技術を用いた多段階の合成プロセスが不可欠であり、また、基材もガラスのような無機固体に制限されていました。これに対して,我々は,最近,ポリスチレンなどの汎用性高分子と液晶性高分子をつなぎ合わせたブロック共重合体を、汎用性高分子に少量添加して加熱するだけで、ブロック共重合体が表面に偏析し、液晶の自己集合構造により主鎖が垂直に配向する現象を見いだしました。
 さらに、この表面偏析した高分子液晶鎖は、溶媒の効果が無くても伸びきり鎖の約80%に相当する長さとなり、常識では考えづらい程延伸された高分子ブラシ構造を持つことがわかりました。本研究の表面の液晶ブロック鎖は光配向が可能であり、基材となる汎用性高分子と液晶性ブロック共重合体の組み合わせは様々に考えられること、きわめて簡便に高密度ブラシが調製できることから、液晶光配向膜への応用( ChemPhotoChem, 3 (6), 495-500(2019))やその賦形材料表面への導入(動画: Adv.  Mater. Interfaces, 8 (20), 2100891 (2021))、異方的な摩擦特性を示す表面改質など様々な応用展開が期待されます。
 

LinkIcon Angew. Chem. Int. Ed. 55 (45), 14028-14032 (2016).
LinkIcon ChemPhotoChem 3 (6), 495-500(2019).
LinkIcon Langmuir, 35 (32), 10397-10404 (2019).
LinkIcon Adv. Mater. Interfaces, 8 (20), 2100891 (2021)
 

Movie Gallery

現在のtoppageで写真をパンしてる動画です。

「Command Surface」のデモです。液晶分子/基板界面にアゾベンゼンポリマーの薄膜を設け、光照射で液晶の配向をスイッチします。

「Photoswitching for compatible-incompatible LC polymer blend」のデモです。PAzポリマーとPCBポリマーの相溶系ブレンドを光照射で相分離させます。

茶こしをシランカップリング処理すると、水をはじいて濾せない茶こしができます。Hydrophobic surface-treated tea strainer.

オープンキャンパス用にいくつか作った動画の一つです。This is one of several videos made for Open Campus.