1.はじめに
HESDはHigher Education for Sustainable Developmentの略であり、高等教育機関のESDへの取り組みについて、情報交換および交流をはかる目的で構築された大学間のネットワークである。第1回目となるHESDフォーラム2007は、2007年12月22日に岩手大学の主催によって盛岡で行われ、立教大学ESD研究センターを含む16大学の該当機関が各校のESDに関する取り組みと進捗状況についての発表を行った。2008年度は、HESD関連事業として、1)「エコプロダクツ2008」(正式名称:地球と私のためのエコスタイルフェア~エコプロダクツ2008、東京ビックサイトにて開催)におけるESDセミナー、2)HESDフォーラム、3)HESD国際シンポジウムを開催した。
2.セッション1:参加大学からの報告
大学におけるESDの取り組み事例が報告された。
報告:
「ESD人材養成に向けた教員養成カリキュラム・教員組織・教育方法の改革」(北海道教育大学釧路校)
「ESDに向けた北海道大学の取り組み」(北海道大学)
「岩手大学『学びの銀河』プロジェクト2008」(岩手大学)
「立教大学ESD研究センターの取り組み」(立教大学)
「上智大学における環境リテラシー教育
—持続可能な社会をになう人材養成をめざして—」(上智大学)
「教養教育としての生活園芸~持続可能な環境と担う市民の育成」(恵泉女学園大学)
「武蔵工業大学環境情報学部の取り組みと高等教育段階における環境教育の展望」(武蔵工業大学)
「環境素養を持つ技術者育成教育プログラム:持続社会コーディネーターコース」(豊橋技術科学大学)
「世界に学び地域に還すものづくり環境教育~多文化共生・持続的社会の実現に向けた技術者の使命を学ぶための~」(富山工業高等専門学校)
「富山県立大学における環境リテラシー教育の取り組み」(富山県立大学)
「琵琶湖で学ぶMOTTAINAI共生学」(立命館大学)
「『淀川学』2008年度の進捗状況」(大阪工業大学)
「里山の修復活動を通じた環境理解教育の実践~キャンパス里山を素材とする人間と自然の相互作用の理解と環境倫理の養成」(近畿大学)
「アクション・リサーチ型ESD開発と推進」(神戸大学)
「岡山大学におけるESD導入への取り組み」(岡山大学)
「愛媛大学共通教育科目の中で展開する環境ESD指導者養成カリキュラム」(愛媛大学)
「現代GP『豊饒な吉野川を持続可能とする共生環境教育』の実施と今後について」(徳島大学)
「人を育て技術を拓く環境ESDプログラムの実践報告:地域教育のネットワークと地域自然環境を利用した実践的環境共生教育」(西日本工業大学)
*発表資料PDFデータ
3.セッション2‐1:カリキュラムにおけるESDの制度化について
司会:田中治彦(立教大学ESD研究センター)
発題:玉真之介(岩手大学)
「学士課程教育の課題とESD」 PDF
パネリスト:小林修(愛媛大学)
「愛媛大学共通教育科目の中で展開する環境ESD指導者養成カリキュラム」 PDF1 PDF2
鬼頭宏(上智大学)
「上智大学における環境リテラシー教育~持続可能な社会をになう人材養成を目指して」 PDF
1)発題
カリキュラムを議論する際には、学士課程教育の構築という課題とESDを関連させる必要がある。つまり、国際的に通用する教育の「質保証」を行い「学士」に相応しい「学習効果」としての「学士力」を保証するという問題である。その背景には、高等教育への信頼を取り戻す必要があること、およびOECDの示す新しい学力観である「キー・コンピテンシー」が影響力を持ち始めていることがある。平成17年に中教審から「我が国の高等教育の将来像」という答申が出され、教養と専門性を備え、社会を支え、改善する「21世紀型市民」の育成を学士課程教育の共通の目的とすべきであるとしている。「学習効果」として提起されている内容が、まさにESDの目指す「批判的思考」や「倫理観」と重なり合っていることは注目すべきである。
岩手大学では、育成する人材像である「21世紀型市民」と「学士力」の議論を結合し、それに向けた教育カリキュラムの編成を、共通教育から始めている。領域とタイプという授業科目の分類を作り、学外の諸団体と連携する授業科目、高年次課題科目を作り、ESD副専攻の制度化をめざしている。ESDが育むべき力を「学士力」として明確にし、カリキュラムに反映させていくことが大きな課題である。さらに、分野横断的に持続可能な社会づくりとの関連を研究することが重要といえよう。
2)パネル・ディスカッション
発題を受け、学士課程教育の構築とESDのカリキュラム制度化に焦点をあてて議論がなされた。「21世紀型市民」という人材像が打ち出されてはいるものの、その中身については明確になっていないことから、ESDカリキュラムを通じて、幅広く深い教養、人類的諸課題の理解、グローカルな視野、高い倫理性を兼ね備えていることが21世紀型市民であるという理解のもと、学士力の育成につなげていくことが重要である。
カリキュラムの制度化に向けては、学内における合意形成の難しさや、ESDという言葉の理解のしにくさが指摘され、「環境リテラシー教育:新たな教養」という表現のもとにESDを進めようとしている上智大学の取り組みが紹介された。
カリキュラムの制度化においては、大学の方針としての制度設計(学位授与の方針や教育目標の明確化など)というトップダウンによる方向性と、ESDに取り組む個々の教員の授業実践蓄積というボトムアップによる推進の両者がバランスよく機能することが肝要である。
4.セッション2-2:連携の在り方について
司会:橋本俊哉(立教大学ESD研究センター)
発題:中島恵理(環境省総合政策局)「産官学民連携による環境人材育成コンソーシアムについて」PDF
パネリスト:見上一幸(宮城教育大学)「教員養成大学が中心となった連携」 PDF
阿部治(立教大学ESD研究センター)「ESD研究センターが中心となった連携」 PDF
1)発題
環境省のアジア環境人材育成イニシアティブ(ELIAS)および「環境人材育成コンソーシアム(仮称)」研究会の紹介がなされ、産学官民連携の環境人材育成をめざした全国の大学間連携の場としての活用への協力が呼びかけられた。今後あらゆる分野(行政、企業、市民社会)で求められる環境人材の育成における大学の役割は、専門性と分野横断的な知見を持つ人材育成であり、大学間連携による効果的教育の実現が求められる。コンソーシアムへの参加は、組織単位、個人単位で正会員、賛助会員など多様な関わりが可能となっている。
パネルディスカッションの様子 会場の様子
2)パネルディスカッション
宮城教育大学からは、国連大学によるRCE仙台広域圏のネットワークの事例が紹介された。教員養成大学として、教育委員会と連携しつつ小・中学校に対する学校・教師の支援体制を作るために、地域のあらゆるセクターとのネットワークを進めている。また、宮城県下の小・中学校に対して積極的にユネスコスクールへの登録も奨励しており、現在22校が認定済みとなっている。
立教大学からは、ESD研究センターにおける国内外との連携による取り組み等が紹介された。また、ESD人材育成の「出口」として、卒業・修了後の雇用の場が少ないことへの対応として、新たな職域の創出(コーディネーター、ファシリテーター)の必要性が指摘された。
5.総括ディスカッション
2008年度のHESDのネットワークをさらに広げ、深めていくための体制を作ることが立教大学 阿部治から提案された。2009年度は、岡山大学での開催が確認され、「世話人会(HESD組織化準備委員会)」が組織された。
今後ESDを広げていくためには、既存の多様なネットワークあるいはESDに関心ある個人をどのように連携させていくかが大きな課題である。そのための連携事業が求められている。北海道大学や岩手大学が取り組むサステナビリティウィークや環境週間は、有効な先進事例となっており、今後の具体的な連携が期待される。 |